パームサンデー(聖枝祭)の9日に2つの教会で自爆テロが発生し、計45人が死亡、約130人が負傷したエジプトのコプト正教会は、15日の日没後から厳戒態勢が敷かれる中、各地で祝祭色をなくしたイースター(復活祭)の礼拝を持った。同教会トップのコプト教皇タワドロス2世は少なくとも警備員8人に同行され、首都カイロにある同教会総主教座の聖マルコ大聖堂に入り、他の主教らと共に復活祭の祈りを導いた。
エジプト・インディペンデント紙(英語)によると、教皇は約5千人の出席者を前に、「われわれの心は、犠牲者のための痛みであふれています。彼らを忘れることはありません。神のご加護がありますように。神がこの愛する国を守られるよう祈ります」と語った。また事件後、アブデルファタハ・アル・シシ大統領の訪問を受けたことを「大きな連帯のしるし」だとコメント。「われわれエジプト人は、喜びと悲しみを共にします」「歴史は聖枝祭の殉教者たちを思い起こすでしょう。神はあの日、彼らをわれわれのために祈る天の大使として選ばれたのです」と続けた。
AP通信(英語)によると、教皇は聖金曜日の14日に行った説教で、テロ事件の犠牲者を追悼するため、今年の復活祭は祝祭色をなくしたものにするとし、通常行っている日曜日朝の祝会も取り止めることを発表していた。エジプト内務省は、教会周囲を半径400メートルの非常線で囲い、車両の通行を禁止するなど警備体制を強化。爆弾処理班が全国の教会で不審物がないかを念入りに調べるなどした。
コプト正教会では、復活祭は土曜日の日没後から徹夜で行われる。エジプトのアハラム紙(英語)によると、今年はテロ事件を受け、土曜日15日夜の礼拝は規模を縮小して、祈りを中心としたものとし、日曜日16日は犠牲者を追悼する時を持ったという。
ロイター通信(英語)によると、事件現場の1つである北部の都市タンタの聖ジョージ教会にも16日、厳戒態勢の中、数百人が集まった。「私たちは犠牲者と遺族に哀悼の意を示すのです。ひどい状況です」。同教会を訪れたナッサー・ムニアさんは同通信にそう語った。一方、ムニアさんは、事件が発生してやっと警察が安全対策を講じ始めたと言い、「なぜ今なのか。理解できません」と警察への不満をあらわにした。聖ジョージ教会のビショー・ワディア修道院長も「危機が起こってからしか動き始めないというのが、普通になってほしくありません」と語った。
この他、テロ事件の負傷者が収容されている2つの軍の病院でも15日夜、復活祭の礼拝が持たれ、負傷者や家族たちが出席した。
27人が死亡した聖ジョージ教会では、犯人は教会内部まで侵入し、信徒席の最前列付近で自爆したとみられている。一方、警備員3人を含む18人が死亡したアレクサンドリアの聖マルコ大聖堂では、教会の入り口にあった金属探知機の前で警備員に止められたところ、犯人が自爆ベストを爆発させたとみられている。
事件に対しては、過激派組織「イスラム国」(IS)が犯行声明を出している。コプト正教会はこれまでもISのターゲットにされており、2015年2月には、隣国リビアで出稼ぎ労働をしていたコプト正教徒21人が斬首されている。昨年12月には、カイロの聖マルコ大聖堂に隣接する教会で自爆テロがあり、礼拝に出席していた28人が死亡、40人以上が負傷している。
エジプトは、人口9300万人のうち80パーセント以上がイスラム教徒で、残りはキリスト教徒、特にコプト正教徒がその大部分を占めている。「コプト」というのは、7世紀にアラビア人が入ってきてエジプトのキリスト教徒のことを「クブト」(qubt)と呼んだことに由来する。ほとんどの信者はエジプト国内にいるが、国外にも約100万人の信者がいるとされている。