「聖金曜日」「受難日」、英語では「Good Friday」と呼ばれる復活祭(イースター)前の金曜日。イエスの十字架上での受難を覚え、祈りをささげるこの14日、豊洲シビックセンターホール(東京都江東区)で「Australia Ballet Company (ABC) ー Tokyo バレエ団」による「メサイア」の上演が行われた。バレエ関係者や、レッスンを受けている子どもたち、地域の人々やキリスト教関係者などが集い、約300席ある会場はほぼ満席となった。
同バレエ団は1995年にウィーンで発足し、2004年に日本に拠点を移したプロのバレエ団。設立者のクリスティアン・マルティーヌさんは、今回の上演ではイエス・キリストを演じた。
主催したのは、豊洲で礼拝を持つグレース・ハーバー・チャーチ。その牧師である青柳聖真氏は公演前のインタビューに次のように答えてくれた。
「豊洲は見てのとおり新しい街です。文化的な催しも少なく、この地域の皆さんに少しでも喜んでいただければと思い、バレエの上演を企画しました。今日おいでになるお客様の半数以上が、キリスト教以外の方々だと思います。われわれクリスチャンにとって大切な日である『受難日』を皆さんと共に覚えることによって、少しでもキリスト教を身近に感じ、さらには教会につながっていただければ、この上ない喜びです」
舞台は、大天使が登場し、アダムとエバが悪魔に誘惑されるところから始まる。エバが「善悪の知識の木」の実を食べてしまうと、舞台は一転、人は罪に縛られることになる。
ファリサイ派の人々は救いの約束をお金で売買し、民たちはそんな彼らに従ってきた。しかし、見返りを求めず貧者を愛し、病人を癒やすイエスの姿と教えに接して心打たれた人の数は日に日に増えていった。
エルサレム神殿を市場のようにしてしまったファリサイ派に激しい怒りを表すイエス、姦淫(かんいん)の女に罪の赦(ゆる)しを告げる様子、婚礼の場で水をぶどう酒に変える奇跡、子どもを愛するイエスなども華やかにバレエで表現した。
その後は、ユダの裏切り、最後の晩餐、ゲツセマネの祈り、十字架上の死へとシーンは続く。神の教えに背いたわれわれの罪によって、十字架にかけられたイエス・キリスト。徐々に大きくなる音楽に、心を抉(えぐ)られる思いがした。
ダイナミックかつ美しいバレエの踊りと音楽によって、イエスの壮絶で愛に満ちた地上での生涯が見事に伝わってくる。セリフや歌詞がないにもかかわらず、バレエそのものからイエスの愛と苦悩を感じた観客からは、シーンごとに大きな拍手が起こった。
最後のシーンでは、十字架の後、復活を遂げたイエスが弟子たちの前に現れた。イエスの死と引き換えに人は赦され、罪から解放されるという神の計画が、喜びに満ちた音楽と踊りによって分かりやすく伝わってくる。
上演後、再び舞台に登場した青柳氏は次のように話した。
「2千年前に起きたこの出来事を、イエスの弟子たちは伝え始めました。『神の子なのに、どうして死んだのだ!』と言われても、とにかく真実であるこの話を伝え続けた。私たちの罪は、イエス様が十字架にかかってくださったあの瞬間に赦されたからです」
「終末医療に携わる方にこんな話を聞いたことがあります。人間は死ぬ間際に心の中に浮かぶ言葉が2つあるそうです。1つは『ありがとう』、もう1つが『ごめんなさい』。私は、これは2つとも、イエス様に向けた言葉ではないかと思うのです。人の心には潜在的に、イエス様への感謝と、自分の罪を悔いる気持ちあるのではないでしょうか。私たちのこの『ごめんなさい』のためにイエス様は十字架にかかってくださいました。皆さん、どうか、この会場を出て行かれてからも、イエス様の十字架を覚えていてください」
会場に集まった観客と共に賛美をした後、青柳氏による祝祷でコンサートは幕を閉じた。