「月山満」という名前をパソコンに打ちこんだユキトは「メルヘンの画家・・・小人のいる庭」という言葉を見つけました。「月山満メルヘン美術館」という言葉も見つけました。パソコンの画面を印刷してもらうと、「あら、教会の近くなのね」とママが言いました。
「この人、どういう人なの」「教会に家をプレゼントした人のおじさんなんだよ」
「小人の庭か、ロマンティックね」と、ママが言いました。
早速シュンスケとケンタに「月山満メルヘン美術館」のことを携帯電話で知らせると、いっしょに行こうということになりました。
「連休に行ってもいい? シュンスケやケンタたちと」
「あの子たちと、すごく仲がよくなったね。いい子たちだから行ってもいいけど、ママはいそがしいから、おじさんの所に連れて行ってあげられないと思うよ」
「大丈夫。1人で行けるから」
そういうわけで5月の連休に、ユキトは1人で電車に乗っておじさんの家に出かけ、3人組はまた活動を始めることになりました。
「月山満メルヘン美術館」は、教会からバスで30分ぐらいのところにありました。海が見える小高い丘の中ふくにあり、入り口に「みさき町立美術館」と書いてあります。ラッキーなことに、小学生は無料で入場できるのです。
中には小人の絵がズラリとならんでいました。地下室にあった絵と同じような作品や、庭で遊んでいる子どもの絵もたくさんありました。その中にとても大きな絵があり、そこには小人と遊んでいる人間の子どもがかかれていました。小人は木の上にすわっているようでした。
「あれはビタエと月山さんだよ」と、ユキトが小さな声で言うと、きっとそうだとシュンスケもケンタもうなずきました。「アジサイの木だよ、これは」。シュンスケが言うと、ほかの2人も同意しました。
この庭は、ぼくたちの秘密の庭とそっくりじゃないか。月山満さんは空想ではなく、本当のことをかいたにちがいないと、ユキトは確しんしました。あのノートに書いてあった通りだ。それなら、赤い玉と青い玉と緑の玉で小人と通信できるというのも本当にちがいない。でも、どうやって・・。
3人はいったん美術館を出て、おかのちょう上に続く遊歩道を歩きながら相談しました。3人で行動するときには、もらったプレゼントをふくろに入れて身につけていることに決めていたので、だれもいないあずまやのいすにすわって、それぞれがふくろから取り出して、テーブルの上に3つならべて置いてみましたが、何の変化もありませんでした。
ユキトは赤い玉を2つに分けて置いてみました。シュンスケも青い玉を分かいしました。ケンタも同じように緑の玉を2つにしました。そうやってみても、何も起こりません。
だめだなあ、なんかヒントがあればいいのに。あきらめてふくろにもどそうとしたところ、ふくろの中の何かに指が当たりました。取りだすと、貝のような色をした小さなかけらでした。ああ、これは子どもの小人にもらったものだ。
「これなんだろう」。ユキトがつぶやくと、みんなも自分のふくろから小さなかけらを取り出しました。アルムとブランとグリー。あの子たちは「また会えるかな」って聞いたら、こう言ったよね。ユキトが口にする前にシュンスケとケンタが「きっといつか」と、声をそろえました。
「もしかしたら、この貝がらのかけらのようなものが大切な役わりをするんじゃないかな」「そうかもしれないけど、わかんないよ」
ユキトは2つにわった赤い玉の間に貝のかけらを入れてみました。ぴったりとはしまらなかったけれど、いろいろ動かしていたら、カチャリという音がしました。そして、「君はだれなの」という声がしました。
「ぼくはユキト」「君はアルムなの、ブラン、それともグリー?」
「ユキトか。ぼくだよ、アルム。君は今1人かい、どこにいるの?」
「シュンスケもケンタもいっしょにいる。月山満メルヘン美術館のうら山のあずまやの中」
「じゃあ、青い玉も緑の玉もそこにあるんだね。そばにだれもいないかい? だったらほかの玉も同じようにしてみて」
シュンスケとケンタはそれぞれの玉の中に貝のかけらを入れ、カチャっと音がするまで動かしてみました。
すると、いつか見たようにあわい色の道ができて、消えたかと思うと、テーブルの上にアルムとブランとグリーの姿がありました。
「また会えたね。ちっとも連絡がないから、わすれられたのかと思ってたよ」と、丸いぽちゃぽちゃした顔立ちのブランが言いました。
「これはぼくたちと連絡できるそう置だけど、君たちがぼくたちのところに来るのは、かんたんじゃないんだよ。ビタエ様の力が無いと、ぼくらには無理」と、小人としても小がらな感じの色の白いグリーが言いました。
アルムは子どもたちの中のリーダーのような、落ち着いたがっしりとした体かくの小人でした。前には、そんなによく観察するひまもなかったけれど、この子たちも3人組で仲良しなんだなあと、ユキトは思いました。
「月山さんがぼくたちの教会にアトリエやログハウスのある土地と建物をプレゼントしてくれたんだよ。ビタエさんが子どものころにすごした思い出の場所は、ぼくたちが守るから安心してくださいと伝えてね」とユキトは言いました。
「アトリエの地下室やメルヘン美術館でたくさんの絵を見たよ。ビタエさんと月山常雄さんがかいてある絵も見たんだよ」と、シュンスケが言いました。
「それにアジサイの木の下の大切な場所のことも秘密にするから、安心してくださいって」と、ケンタも言いました。
「ビタエ様は月山さんに聞いたって教えてくれたよ。きっとそのうちに、君たちが連絡してくるから、待っていなさいって言われた」。アルムが言うと「待ち長かったぜ」とブランが言いました。
「ぼくたち、がんばったんだよ」「ヒントが少なすぎるし」「やっとなぞがとけた」「いつでも君たちと連絡できるんだね」。3人組は口ぐちに言いました。
「いつでもってわけじゃないし、どこででもっていうわけにもいかないけど、場所や時によっては、通信できることもあるって感じかな」「だってぼくたちだっていつも見はってるわけにもいかないだろ」と、小人の3人組も言いました。
そういうわけで、あたたかい5月の午後、それぞれの3人組は、いろいろな話をして大いにもり上がりました。けれど下の方から声がしてきて、だれかがやって来る気配を感じると、「じゃあ、またね」とアルムたちの姿は、消えてしまいました。
いいお天気の連休だから、遊歩道にだれかがやって来るのは当たり前だったけど、ちょっぴり残念でした。
3人組はもう一度メルヘン美術館に入り、一つ一つの絵をかん賞しました。月山画伯(がはく)の絵はやさしく、語りかけているようでした。
小人と人間は友達だ。住む世界はちがっても、分かりあえる友達だ。この庭には温かい思いが満ちている。それが、みんなの心を打ち、なんだか分からないけれど、ほっこりとしたよいんを体の中に残してくれる。メルヘンであり、けれど、ただの物語ではない世界をぼくたちは生きているんだなと、ユキトは思いました。
もう一度小人の国に行きたいなあ。ビタエさんがしょうたいしてくれないかなあ。アルムたちに頼めばよかった。今度頼んでみよう。そう思いながら、また電車に乗ってユキトはわが家に帰りつきました。(つづく)
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