80年代のLAメタルシーンで活躍したクリスチャン・メタルの先駆者といわれるバンド「Stryper(ストライパー)」が、27年ぶりの単独来日公演「STRYPER "Yellow & Black is Back" Celebration Tour in Japan」を開催した。2015年に発売された最新アルバム『Fallen』のセレブレーションワールドツアーの皮切りでもあるということで期待が高まり、15日の大阪公演(梅田CLUB QUATTRO)、16、17日の川崎公演(CLUB CITTA')には大勢の観客が押し寄せた。観客に向かって聖書を投げる伝説的なライブパフォーマンスも健在で、来日を切望していた往年のファンらを大いに熱狂させた。
16日の川崎公演では、開場の数時間前にもかかわらず、グッズを買い求める観客の長い行列が会場前に続いていた。遠くから見てもそれと分かる、黒と黄色のストライパーカラーに身を包んだ人、一見そうは見えなくとも、上着の下にちらりとバンドTシャツが見える人、それぞれのストライパーに対する思いが行列から伝わってくる。
スタンディングで1300人を収容する会場は満員。開演前から観客の熱気が満ちていた。バンドメンバーである、弟のマイケル(ヴォーカル、ギター)と兄のロバート(ドラム)のスウィート兄弟と、オズ・フォックス(ギター)、ティム・ゲインズ(ベース)がステージに登場した途端、会場からは大歓声が起こった。
この日のセットリストは、初期アルバムを中心としたベスト・ヒットチューンと最新アルバム・セレクションをミックスした「オールタイム・ベスト」。新曲の「Yahweh」「Fallen」に始まり、80年代のヒットソング「You Know What To Do」「Always There For You」や、ブラック・サバス、キッスといった他バンドのカバー曲など、アンコールのメドレーを含む19曲が演奏された。
27年ぶりの来日は、ファングループ「STRYPER Street Team Japan」(SSTJ)などの長年の招聘運動によって実現したものだ。「27年前のライブに来た人はいるかい?」とマイケルが呼び掛けると会場からは多くの手が挙がり、「あの頃の若かった少年はどこにいってしまったんだい?」とのコメントに温かい笑いが起こった。
日本での単独公演は、ファンだけでなくバンドメンバーにとっても大きな願いであったので、マイケルは観客に向かって深々と頭を下げ、喜びと感謝の意を表した。
ストライパーといえば、観客に向かって聖書を投げるという衝撃的なライブパフォーマンスで知られるが、「あのパフォーマンスは復活するのか?」というファンの期待に応えて、川崎でも聖書が宙を舞った。
最初、唐突にマイケルが何かを投げると「何を投げたの?」と戸惑う観客もいたが、それが聖書だと知っている人々が、わが物にしようと飛び上がって手を伸ばす姿が多く見られた。
終演後も会場入り口付近で、「聖書をもらった人はいませんか?」と熱心に声を掛け続ける人もいたほど。賛否両論あるパフォーマンスだが、「聖書を読んでほしい」というバンドメンバーの思いがファンに届いているのは確かなようだ。
デビュー当時からのファンだという50代の女性は、音楽が良いと感じて好きになったというが、メンバー全員がクリスチャンであると知ったときには、自身がミッションスクールに通っていたので、親近感が湧き、さらに好きになったのだという。
「ストライパーは楽曲も良い、ルックスも良い。何年ぶりかに聞けた曲もあったのでうれしかった。何よりも、メンバーが元気でステージに立っている姿を見られたことが、とにかくうれしかった」と話した。
また、神戸から駆けつけた50代の男性は、若い時からストライパーを知っていたが、自身がクリスチャンになったことをきっかけに見方が変わったと話してくれた。「それまでは、クリスチャン・メタルかと内心小ばかにしていた。4年前にクリスチャンになったときにあらためて曲を聞き、神の愛と素晴らしさを感じて涙が出てきた。特に今日は、『Always There For You』が心に染みて、泣けてしまった。こうした音楽を通しても、神の愛が広がっていくといいなと思う」
大阪、川崎での3日間連続公演という多忙な日程の中で、マイケルが本紙インタビューに応じてくれた。インタビュアーは、日本初のクリスチャンヘビーメタルを名乗る本格的なハードロック・ヘビーメタルバンド「Imari Tones」のボーカルで、昨年6月に設立された日本初のクリスチャンロック専門レーベル「Calling Records」の主宰者の1人であるナカミネタカヒロさん。
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キリスト教についてあまりよく知らない日本のファンに、一番伝えたいことは何ですか?
―おお、まいったね。私たちはいつでも、決して自分たちの信仰を人々に無理に押し付けるようなバンドではありませんでした。私たちはただ人々をインスパイアして、人々を励まし、楽しい時間を過ごしてもらい、人々を笑顔にしようとしているんです。人々は何をするにしても、自分自身で選択をすることができます。信仰ということについては、人それぞれの人生だから。多くの人々が私たちの音楽を好きになってくれるからといって、私たちが信じているものを彼らも信じるとは限らないけれど、私たちはそれでも構わない。そのことで腹を立てて「どうして信じないんだ」と言ったりはしません。私たちは、私たちの音楽と、そこにあるメッセージを通じて、人々が信じるきっかけを作りたいのです。
最近、日本の教会でもようやく、ロックミュージックが受け入れられるようになってきました。若いクリスチャンの人たち、クリスチャンのミュージシャンたちが、さまざまなスタイルの音楽を始めています。ヘビーメタルの世界の中でも最高のシンガーの1人であるあなたから、励ましとアドバイスをお願いします。
―私のアドバイスは、当然のことですが、一生懸命に努力し、そして決して諦めないことです。きっと、「いいね」と言われることよりも、「そんなことをしてはだめだ」と言われることの方が多いと思いますが、それで落ち込んだりしないように。一生懸命に練習して、自分の音楽を完成させてください。ルックスや、演奏技術や、歌い方や、ステージでの振る舞いを磨いていってください。決して諦めなければ、最後にはそれらの努力が報われる時が来ます。成功して、全てが良いようになるでしょう。いいですか、決して諦めないこと。それが鍵です。
ありがとうございます! 最新の2枚のアルバム『No More Hell To Pay』と『Fallen』は、ヘビーかつストレートな作品で、まさにストライパーの本来のスタイルと呼べるものでした。次のアルバムは、これらと同じような作風になるのでしょうか? それとも、全く違ったものを期待していた方がいいでしょうか?
―私たちの次のアルバムは、その2枚と同列に並ぶものになると思います。それらのアルバムの続編のような作風ですが、少しだけ違ったものになるでしょう。その前に、実はもうすぐ「One Sided War」というタイトルの私のソロアルバムが出ます。とてもメロディックで、とてもヘビーなアルバムなので、みんながこれを聴いたらとても驚くでしょうね。ホワイトスネイクのギタリストであるジョエル・ホークストラと、イスラエル育ちのギタリストであるイーサン・ブロッシュ、そしてエヴァネッセンスのドラマーであるウィル・ハントが参加している、とてもパワフルなアルバムです。このソロアルバムと、ストライパーの次のアルバムは、きっとみんなに喜んでもらえるものになると思います。
また近いうちに必ず戻ってくる、そう約束して日本を後にしたストライパー。今後の活動も要チェックだ。