日本でも、クリスチャンロックという言葉を耳にするようになった。一言にロックといっても、ポップ色の強いバンドから、ハードロックなバンドまで、曲調の幅は広いが、キリスト教とロック、クリスチャンとロックミュージシャンのイメージが結び付きにくかった日本のキリスト教会も少し風通しがよくなったように感じられる。
クリスチャンロックを名乗るバンドであれば、多かれ少なかれ、このバンドの影響を受けているだろうという、まさにクリスチャン・メタルの先駆者といえるバンドがある(クリスチャンロックを確立したのは1972年結成のPETRAだといわれている)。米国はロサンゼルスで83年から活動する「Stryper(ストライパー)」だ。その27年ぶりの単独来日公演「STRYPER “Yellow & Black is Back” Celebration Tour in Japan」が、4月15~17日、大阪と川崎で開催される。
1970年代終わりから80年代にかけて、ロックが市民権を得るようになると同時に、ヘビーメタルというジャンルも一般に広く知られるようになった。その中でも、ロサンゼルスで派生したLAメタルと呼ばれる音楽シーンで活躍したのがストライパーだ。当初は、弟のマイケル(ヴォーカル、ギター)、兄のロバート(ドラム)のスウィート兄弟と、オズ・フォックス(ギター)が中心となって「ROXX Regime」というバンド名で活動していたが、ティム・ゲインズ(ベース)の加入後、ストライパーと改名された。
当時のロックはまさに「金と女と音楽」という、多くの人がイメージするロックそのものの全盛期だったが、メンバー全員がクリスチャンであったストライパーは、「音楽で伝道する」という他バンドとは一線を画すビジョンを抱いていた。バンド名「ストライパー」も、イザヤ書53:5にある「by His stripes」(イエスが受けた打ち傷によって)に由来し、この聖書箇所は幾つかのアルバムジャケットやポスターにも明記されてきた。
照れ隠しか、はたまた本音なのかバンドメンバーは「神頼みすれば売れるんじゃないかと期待して」クリスチャンバンドとして活動することを決めたと言っているが、キリスト教の神を賛美する歌詞でありながら、風貌も曲調もザ・ヘビーメタルであったストライパーは、当時の教会音楽のイメージとは大きく外れており、ノンクリスチャンにも広く受け入れられた。
ストライパーの代名詞ともいえる、黄色と黒のストライプ模様の衣装に身を包んだ、その印象的なルックスも多くのファンを呼んだ。ライブパフォーマンスも衝撃的で、客席に向かって聖書を投げたり、最後にはオーディエンスをも巻き込んで共に神に祈る姿が見られた。純粋に「聖書を読めよ」というメッセージを込めて行われたパフォーマンスなのだが、一部保守的なキリスト教会からは反発を受けるなど、数々の伝説的なエピソードを残すバンドだ。
ストライパーが活躍した80年代には、日本にも多くのファンがおり、米国以外での初の海外ツアーは日本で開催されたほどの人気ぶりだった。どれほどの人が歌詞の意味を本当に理解していたかは今となっては定かでないが、当時のオフィシャルファンクラブの会長はクリスチャンであったし、その曲を聞いて「何かが違う」と感じた人は確かに存在したようだ。2013年に「STRYPER Street Team Japan」(SSTJ)というファングループを立ち上げ、ストライパーの招聘活動を進めていたMarie(マリー)さんもその一人だ。
マリーさんがストライパーを知ったのは、高校生の時で、すでにストライパーは解散してしまっていた。マリーさんもまだクリスチャンではなかったので、好きなロックの曲を聞く中でストライパーに出会ったものの、彼らがクリスチャンだということすら知るに至らなかった。
ただ、「縞模様の衣装を着ているからストライパーなのか」という単純なイメージとともに、なぜか歌詞が頭から離れることがなかったという。それから10年以上経って、教会に通うようになって初めて、ストライパーがクリスチャン・メタルのバンドであり、その歌詞の意味が聖書とつながっていることを知った。「ああ、やっぱりという不思議な気持ちになった。信仰をロックで表現できる彼らへの尊敬が、自分自身の信仰を深めていく大きなきっかけになった」
マリーさんが教会に通うようになった時期と、ストライパーが活動を再開させた時期はほぼ同じころだった。2009年、ストライパーがデビュー25周年記念ツアーを開催したのを機に、マリーさんも「来日を実現させたい」と行動を起こすことを決めた。
インターネットのSNSで呼び掛けを始めた当初は、「なつかしい」という声は多く聞かれるものの、具体的な協力者が起きてこなかったが、80年代に活躍したバンドの復活・再結成が増え、当時の音楽が再評価されるようになるにつれて、ストライパーの来日を願う声も大きくなっていった。11年、日本最大のヘビーメタル・フェスティバル「LOUD PARK11」にて、22年ぶりの来日を果たした際には、マリーさんも1日限りの公演に足を運んだ。
全盛期から全く衰えていない演奏に、日本のファンのムードも大いに高まった。そこに神の臨在がある、と強く感じたマリーさんは、その流れを止めないように応援を続け、ストライパー単独での来日をかなえたいと、13年にSSTJを立ち上げ、もう一度日本に来てほしいとバンドへの要請を続けてきた。
すでにオフィシャルファンクラブが解散しているため、SSTJはファンによる草の根レベルでの集まりだが、バンド側にも認知されている事実上公認のグループだ。マリーさんは、SNSでのフロントマンのマイケル、その妻のリサとのやりとりを通して「日本に行くことが目標」と、思いを一つに来日を待ちのぞんでいた。
そして16年1月、ついに27年ぶりの単独来日公演決定の知らせが届いた。日本のファンだけでなく、バンドメンバーにとっても「やっと決まってうれしい!」という喜びのニュースだった。しかもなんと今回は、15年に発売された最新のアルバム『フォールン』のセレブレーションワールドツアーの最初の公演場所として日本が選ばれたのだという。
すでに発表されているセットリストによれば、最新アルバムからの選曲だけでなく、初期アルバムを中心としたベスト・ヒットチューンも組み込まれているそうで、「あの名曲をもう一度ステージで!」「聖書を投げるパフォーマンスは復活するのか?」「昔の派手な衣装で登場するかも!」と期待が高まっている。
マリーさんはストライパーの魅力を、「『自分の音楽は、神様について歌うこと』と公言しているマイケルをはじめ、メンバー全員が何も包み隠すことなく、音楽や生き様を通して、自分たちがクリスチャンであることをオープンにしていること」だという。
「ストライパーのライブには、聖霊の臨在があると確かに感じる。クリスチャンでない人にはそれが何か分からなくとも、他のコンサートとは違うと感じる人がいるならば、それはそこに音楽以上のものがあることに気付くきっかけになると思う。彼らが発信し続けている、私たちの弱さも全部含めて神様は愛している、というメッセージを多くの人に受け取ってほしい」と、マリーさんは期待を込めて話す。
クリスチャンでない人にも、ギターがいい、メロディーがいい、と人気があるバンドだが、その歌詞はクリスチャンだからこそより深く味わえる内容になっているのは確かだ。まだまだ日本のキリスト教会の中には、ロックは邪道というイメージが蔓延(まんえん)しているとしたら、そこに生きる王道のクリスチャンに出会いに、会場に足を運んでみてはいかがだろうか。