アメリカの作家ソーントン・ワイルダーが書いた短編小説に『サン・ルイ・レイの橋』というものがあります。1927年に初版本が出版され、それ以来読み継がれてきています。
これはご存じの方もいらっしゃると思いますが、南米ペルーのリマ郊外で起きた橋の崩壊事故を題材として書かれたものです。サン・ルイ・レイという名前の橋は大変美しいものであったそうです。
その橋はインカ帝国が栄えた頃にできた橋で、1714年に崩壊しました。その時にちょうど橋の上を通行していた5人の人が犠牲になるという話です。
事故を目撃した一人のフランシスコ会派の修道士が一つの疑問を抱いたのです。橋の崩落の時にちょうどその上に歩いていた人々は偶然そこにいたのか、それとも背後になんらかの神の意志が働いていたのか、という宗教的、形而上学的な疑問です。
そこで彼はその5人の過去について多くの人々にインタビューを行い、彼らの性質や過去と事故との間につながりがあるかどうかを見極めようとするのです。そして膨大な書物を作り上げました。
そのことがフランシスコ会派の諮問委員会の怒りに触れてその書物は焼かれてしまいます。そして彼も処罰を受けるのです。
その一方で、橋の崩落の犠牲者の遺族たちはそれぞれの悲しみをかかえて悩み苦しむのですが、一人のアベスという遺族が、他の遺族の所を訪問します。この悲しみを真に理解してくれるのは同じ悲しみを体験した人だけだと思うからです。
そして、訪問してみると、遺族の一人はカトリックの修道女で、孤児院で孤児たちや病人の世話を忙しくしているのでした。その献身的な奉仕の姿に触れてアベスは深く感動するのです。
そして小説の最後でこう言わせています。「生者の国と死者の国があり、その二つをつなぐ橋は愛である。それだけがいつまでも続くものであり、それだけが意味のあるものだ」
東日本大震災を思うとき、この作品を再び思い出します。結局私たちには分からないことがたくさんあり、神だけがご存じの世界がある。しかし、悲しみを抱えながらも愛に生きることだけが人生に意味を与え、愛だけがいつまでも残るものだという聖書の真理があらためて響いてきます。
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福江等(ふくえ・ひとし)
1947年、香川県生まれ。1966年、上智大学文学部英文科に入学。1984年、ボストン大学大学院卒、神学博士号修得。1973年、高知加賀野井キリスト教会創立。2001年(フィリピン)アジア・パシフィック・ナザレン神学大学院教授、学長。現在、高知加賀野井キリスト教会牧師、高知刑務所教誨師、高知県立大学非常勤講師。著書に『主が聖であられるように』(訳書)、『聖化の説教[旧約篇Ⅱ]―牧師17人が語るホーリネスの恵み』(共著)など。