パキスタンで2月29日、冒とく法に反対する主張をしていたことを理由にパンジャブ州のサルマン・タシール元知事を殺害した男に対し、死刑が執行された。
ムムターズ・カドリ死刑囚は2011年、イスラマバードのタシール氏の自宅で、タシール氏を射殺した。カドリ死刑囚は現地時間2月29日午前4時30分(日本時間同日午前8時30分)ごろ絞首刑を執行され、その数時間後街で抗議行動が起こった。カドリ死刑囚は、急進派イスラム教徒の一部からは信仰を守った英雄と見なされている。
逮捕後、カドリ死刑囚は警察に対し、個人的な争いから冒とく罪で告発され死刑判決を受けたキリスト教徒の女性アーシア・ビビさんをタシール氏が擁護したために殺害したと供述した。タシール氏は、冒とく法は誤用されており、改正されるべきだと語ったことがあった。
カドリ死刑囚の弁護士は、カドリ死刑囚がタシール氏の殺害を後悔していないと語ったことを明かした。
「私は刑務所の中で2回彼に会いました。彼は、もしアッラーが5千万人の生命を自分に与えていたとしても、それでも5千万人全てを犠牲にするだろうと言っていました」と、グラム・ムスタファ・チャウダリー弁護士は語った。
死刑執行の報を受け、イスラマバード法曹会議(the Islamabad Bar Council, IBC)の議長は死刑執行に抗議するために1日間のストライキを呼び掛けた。 また、抗議活動の参加者はラーワルピンディーとイスラマバードを結ぶ主要道を一時的に封鎖した。後に警察が出動し彼らを解散させ、さらなる抗議行動を防ぐために道路を封鎖した。
チャウダリー氏は1日のカドリ死刑囚の葬儀に際し、さらなる抗議活動を予告した。
「私たちの見地からすれば、抗議活動はただ増大していくだけでしょう」とチャウダリー氏。
英国パキスタンキリスト教協会(BPCA)のウィルソン・チョードリー議長は2月29日、タシール氏の殺害を「憎むべきもの」と糾弾し、「パキスタンを傷つけ、国内での少数派に対する過激主義の広がりに光を当てた行動」と評した。
「英国を含む欧米諸国がパキスタンのキリスト教徒はまれにしか迫害に遭わないと推測している間に、パキスタンで寛容を唱える小さな声は、パキスタンを平等主義の国とするための困難と戦うことになるでしょう」
「パキスタンの現政権は、この顕著な事件の司法手続きに際し正義を推し進めた努力を称賛すべきです。死刑に対し誰がどう考えていようとも、パキスタンでは実効的な法律であり、このような形で結実させたことは勇敢な決断なのです。ムムターズ・カドリ死刑囚への絞首刑執行は、正義が達成可能であること、またテロリストが信仰や大衆の支持を盾にすることがもはやできないことを反映しており、そのような刑の免除が終結したことを示しています」
イスラム教徒が優勢なパキスタンでは厳密に法律が運用されており、毎年100人以上が冒とく罪で告発されている。「預言者ムハンマドを汚した」として告発された人は死刑に相当し、クルアーンを損傷した人は終身刑に処される。「他者の宗教的感情への侮辱」は最大懲役10年の刑に処される可能性がある。
人権団体によると、冒とく法は頻繁に過激主義者によって誤用されており、個人的な争いの解決や財産や職業の没収を目的として、少数派に対し偽りの告発がなされている。まだ絞首刑の執行はないが、有罪判決を受けた人は牢獄で衰弱している。
冒とく法に関する論議は、パキスタンにおける宗教的保守派とリベラル派のギャップの拡大を示しており、強硬派の宗教的指導者は、その法律を批判したタシール氏自身が冒とく者だと見なしている。
事件の数日後、裁判所に出頭したカドリ死刑囚に、バラの花びらをまいて出迎えた弁護士もいた。カドリ死刑囚に初めて有罪判決を下した判事は、殺害の脅迫を受けて国外に脱出せざるを得なくなった。