世界保健機関(WHO)が1月28日、ジカ熱の「爆発的な流行」として警告を発したことを受け、ラテンアメリカ諸国の政府内では、中絶禁止を緩和する議論が再燃している。ジカ熱は、小頭症の発生と関連のある疑いがある。
申請時の脳が十分発達せず、脳が小さいまま生まれてくる病気「小頭症」がラテンアメリカ諸国で多発している。米クリスチャンポストが1月25日に報じた通り、現地では蚊が媒介するとみられているジカ熱の発生が急増している。
マーガレット・チャンWHO事務局長は記者会見で、ジカウイルスに対する警戒レベルが「極度に高い」とした上で、「ジカウイルス感染と乳児の先天異常や神経疾患の因果関係はまだ特定されていませんが、強く疑われます」と述べた。
チャン事務局長はさらに、「つい最近判明したこの疑いによって、ジカ熱に対する危険性の認識が弱い脅威から警戒すべき存在へと大きく変わりました」とも語った。
チャン事務局長は、この流行が国際的な公衆衛生上の緊急事態に相当するかを検討するため、1日に会議を持った。
この病気は、ラテンアメリカ諸国でパニックを引き起こしている。ジカ熱が流行している国の幾つかでは、女性に対し妊娠しないよう呼び掛けられている。ジカ熱には特定の治療法がなく、感染しても80パーセントが発症しない。
BBCによると、ブラジルでは妊娠に対する呼び掛けはまだ発表されていないが、小頭症の罹患数が3500件報告されている。そして一つの市だけでも、10万人もの人が感染した可能性があると保健職員が明かした。
ガーディアン紙によると、ブラジルの次に感染数が多いコロンビアでは、少なくとも890人の妊婦がウイルスに感染しており、政府当局は女性たちに、6カ月から8カ月妊娠を遅らせるよう呼び掛けている。
アレハンドロ・ガヴィリア保健・社会保障大臣は先週、「リスクについて情報を発し、人々に深刻な結果がある可能性のあることを伝えるのは正しいと考えています」と語った。エルサルバドル政府は女性に対し、少なくとも2年は妊娠しないよう呼び掛けた。パナマは、特にジカ熱が流行している地域の先住民たちに妊娠を避けることを勧め、まだ発生が報告されていないジャマイカでも同様の呼び掛けがなされている。
しかし、当局の職員の中には、ジカ熱が流行しているラテンアメリカ諸国のほとんどはカトリックが優勢で、避妊についての知識を十分与えられていないため、妊娠しないようにとの呼び掛けは「非現実的」だと論じる人もいる。
女性の権利擁護団体「Ipas」の政策アドバイザーで、ブラジルに拠点を置くベアトリス・ガッリ氏は、「女性が妊娠を避けるべきだという類いの呼び掛けは、非現実的です」と述べた。「なぜこの状況の負担を、全て女性にかぶせるのでしょうか」
ブラジルでは、強姦と特定の医療的な状況以外での中絶は違法だ。
ジカウイルスに感染した女性の苦境に同情的なヘシール・コエーリョ・デ・アルカンターラ判事は、もし胎児が小頭症だと診断された証拠を提供できるなら、中絶を認めることができるだろうと述べた。
キリスト保守派諸団体の連合「中絶のないブラジル運動(The Brazil Without Abortion Movement)」は、判事の発言を「受け入れがたい」とした。
カリフォルニア大学サンフランシスコ校で放射線学を教えるジム・バーコビッチ博士は、ニュースサイト「GlovalPost」に、小頭症の診断をもって中絶を行う理由とすることは、十分ではないだろうと語った。
小頭症は胎児の2~3パーセントがかかる病気で、さまざまな原因があり、経過も多岐にわたる。この病気にかかった胎児は、出生前に死亡することもあれば、健康な実りある人生を送ることができることもある。
バーコビッチ博士は、小頭症の胎児の脳を検査することで、深刻な損傷があるのか、それとも適切に発達していないのかを診断することができるとも指摘した。
「もし脳が深刻な損傷を負っているなら、いずれにしろ出生後1年以内に亡くなる赤ちゃんを出産するよりは、妊娠中絶したほうが家族にとってはまだよいかもしれないと私は思います」とバーコビッチ博士は述べた。