ハバロフスクに到着すると同時に、インツーリスト(ソ連の国営旅行会社)の迎えを受けホテルへ。当時のソ連では、外国からの旅行者はすべて、インツーリストの監視下に置かれることになっていたのだ。しかしそんなこととは知らない私は、VIP並の待遇にただ喜んでいた。
すぐ市内観光へ案内される。すべてが丁重であり、きわめて優雅な旅だが、なかなか一人になれなかった。やっと翌日の午後、時間が空いた。案内がないとのことなので、この町の公認教会を一人で訪ねることにした。何しろロシア語が話せない。何時間も歩き、やっと町はずれのバプテスト教会を見つけた。集会の始まる前に、一人の男性が聖書朗読をしている。涙を流し、声を詰まらせ、熱誠をこめて読んでいる。
出席者は会堂に入るとひざまずいて祈る。少し悲しみを帯びた静かな歌声が会堂いっぱいに満ちた。集会後、主が守ってくれた聖書のうちの三冊と日本からのおみやげを渡すことができた。感謝だった。
ハバロフスクでの最終日。近くを流れるアムール川へ行き、無性に船に乗りたくなり、行き先知らずの乗客となった。一時間ほどで終点に着いたが、片道切符で往復乗せてもらった。帰りにレーニン通りでロシア語のトラクトを十数枚配ったのも、良い思い出となっている。
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榮義之(さかえ・よしゆき)
1941年鹿児島県西之表市(種子島)生まれ。生駒聖書学院院長。現在、35年以上続いている朝日放送のラジオ番組「希望の声」(1008khz、毎週水曜日朝4:35放送)、8つの教会の主任牧師、アフリカ・ケニアでの孤児支援など幅広い宣教活動を展開している。
このコラムで紹介する著書『天の虫けら』(マルコーシュ・パブリケーション)は、98年に出版された同師の自叙伝。高校生で洗礼を受けてから世界宣教に至るまでの、自身の信仰の歩みを振り返る。(Amazon:天の虫けら)