カトリック美術家として宗教画に取り組んだ長谷川路可(1897~1967)が制作し、現在日本二十六聖人記念館(長崎市西坂町)にある壁画「長崎への道」が、壁画修復士として活動する東京文化財研究所の前川佳文さんにより半世紀ぶりに修復された。朝日新聞が伝えた。
今回修復された「長崎への道」は、縦約2・7メートル、横約6・5メートルで、1597年にキリシタン弾圧で処刑された日本二十六聖人が、京都で捕らえられ、市中引き回しにあった後、歩いて長崎まで連れられ、西坂で処刑されるまでの様子が描かれたフレスコ画。67年に製作されたが、路可はその前年に同記念館でフレスコ画「ザヴィエル像」を制作した後、心臓病に倒れ、入院した。「長崎への道」はその翌年に制作され、路可の遺作となった。
フレスコ画といえば、ミケランジェロらがルネサンス期に描いた壁画などが有名だが、そのフレスコ画の技法をヨーロッパで身に付け、日本に持ち込んだのが長谷川路可だ。1897年に東京で生まれた路可は、暁星中学時代に洗礼を受け、カトリックに入信している。「路可」は雅号で、洗礼名にちなんでいる。
卒業後、南画を習得し、東京美術学校の日本画科に入学。1921年にはフランスに留学し、洋画技法を習得した後、26年にフォンテーヌブロー研究所においてフレスコ画の技法を学んだ後、27年に帰国。翌年には、東京都狛江市の伊東家聖堂(現在のカトリック喜多見教会)に日本で最初のフレスコ壁画を制作し、その後、教育施設や文化施設などで多くのフレスコ、モザイク壁画を制作した。
路可は日本だけでなく、51年から59年にかけて、イタリア共和国ラツィオ州ローマ県にあるチヴィタヴェッキア市の日本聖殉教者教会聖堂にも「日本二十六聖人」の壁画をフレスコ画で制作している。その他にも、ローマ市内にあるウルバノ大学で「聖ザヴェリオ」のフレスコ画を残している。また、平信徒でありながら、4人のローマ教皇(ピウス11世、ピウス12世、ヨハネ23世、パウロ6世)に拝謁した人物としても知られる。
朝日新聞によると、今回修復をすることになった前川さんは、中学生の頃、イタリア・ローマのシスティーナ礼拝堂にあるミケランジェロの壁画の修復をテレビで見て興味を持ち、イタリアに渡って経験を積んだ。2012年に日本に戻り、13年から路可について調べていたところ、折しも「長崎への道」の傷みに悩んでいた記念館から相談を受け、修復することになったという。