5. 分かりにくい安保法の内容
このような大きな批判の高まる中、安倍内閣は今年5月、安保法案を国会に出しました。これは閣議で決めた集団的自衛権を具体的に使えるようにする法律です。法律がないと政策を行えません。それで安保法をつくったのです。この安保法は、内容が複雑で非常に理解しにくいです。なぜかというと、多くの法律が集まっているからです。11あります。1つは国際平和支援法、これは新しい法律です。その他の10の法律は既にある法律を改正するものです。この11の法律をまとめて「平和安全法制」(安保法)と呼んでいます。
まず、国際平和支援法、これは集団的自衛権と直接の関係はありません。海外で自衛隊が他国の軍隊を後方支援する法律です。例えば、国際社会の平和と安全という目的を掲げて戦争している他国の軍隊を、自衛隊が出掛けていって後方支援するものです。2004年、イラク戦争の時、自衛隊が出ていきました。あの時は自衛隊を出すため期限付きの特別措置法をつくったのです。今度は普通法ですから、これからは自衛隊をいつでも海外に派遣できるようになります。これが安保法の最初の問題点です。つまり自衛隊をいつでも海外に出せるようにしておくための法律です。
次に10本の法律の改正です。これは全て、集団的自衛権と関係するものばかりです。全部見られませんので主なものを3つだけ見ておきます。
1)重要影響事態法
まず、重要影響事態法です。これは周辺事態法という法律を改正したものです。放っておくと日本への武力攻撃が起こる恐れがあるとき、これを重要影響事態といいます。それを防ぐために活動する米軍などの後方支援をする。この後方支援は戦闘現場では行わない。武器を直接使う戦闘現場での活動はしないというのです。しかし、武器を使用する場合を書いています。それは自衛隊が後方支援活動をしているとき、自衛隊員自身に危険が迫り、その身体や命が危険になったときは武器を使えると決めています。
武器を使うこと、「武力の行使」は戦闘行為です。戦争です。法律で「武器を使用する」と言うと、きれいごとに聞こえますが、実態は戦争なのです。また周辺事態法では、「我が国周辺の地域における」と書いてあり、地域が日本周辺に限られていました。しかし、重要影響事態法ではこれが取っ払われました。日本周辺だけではなく、中東のホルムズ海峡など、世界中どこでも自衛隊を出動させることができます。これが安保法の重要な問題点です。
2)武力攻撃事態法
次は、武力攻撃事態法の改正です。武力攻撃・存立危機事態法ともいいます。これは、集団的自衛権をどのような時に使い、自衛隊を出動させるかを定めています。いわば、今度の安保法の中心になる法律です。ですからこの法律をめぐって国会でいちばん議論されました。「存立危機事態」とは何かということです。その定義でこう定めています。事態が「武力攻撃事態」であること、これはどういう時かというと、「我が国と密接な関係にある他国に対する武力攻撃」があった時です。
日本と米国は同盟国ですから、米国は当然含まれます。その他、オーストラリアも含まれるようになります。最近、日本とオーストラリアの軍事的な関係が深まりつつあります。日本から潜水艦を輸出するそうです。「我が国と密接な関係にある他国」の中に、米国やオーストラリアも入るのです。これらの国に対する武力攻撃が発生し、それにより日本の存立が脅かされる危険な事態が生じた。それに対応するために武力の行使が必要と認められるとき、これを「存立危機事態」というのです。
安倍首相の国会での説明によると、中東のホルムズ海峡でイランが機雷をまくと日本のタンカーが通れなくなる。日本が消費する石油の80パーセントは、このホルムズ海峡を通ってくる。石油が来なくなると国民生活は成り立たなくなる。これが存立危機事態だというのです。こういう事態を避けるために、海上自衛隊を派遣して機雷を取り除く、これを機雷掃海といいます。こういう説明を繰り返しました。しかし、最近9月14日以後はこの発言を否定しています。奇妙なことです。
3)自衛隊法
最後は自衛隊法の改正です。これは、1)の周辺事態法の改正と、2)の武力攻撃事態法の改正により必要になる改正です。自衛隊の海外出動について定めています。
6. 安保法のよく分からない点
国会の議論でよく言われたことですが、安保法により自衛隊がこれまでと違って、いつでも、どこへでも出掛けていくようになるという、これは一体どういうことでしょうか。まず、①「いつでも」というのはどういうことでしょうか。それから、②「どこへでも」というのはどういうことでしょうか。そして最後に、③「自衛隊が他国軍の後方支援をする」というのはどういうことでしょうか。この3つの点を考えてみましょう。
1)「いつでも」とは?
まず、「いつでも」について、これは先ほども言いましたが、2003年のイラク戦争の時、自衛隊を出すのにイラク特別措置法という法律をつくりました。しかしこれからは、国際平和支援法でいつでも自衛隊を海外に出すことになります。それから、重要影響事態や武力攻撃・存立危機事態が起こったと政府が認めると、自衛隊が出動することになります。政府が認めれば、いつでも自衛隊を海外に出せるのです。
2)「どこへでも」とは?
次に、「どこへでも」についてです。これまでは周辺事態法という法律で、「我が国周辺」となっていました。日本周辺といっても、はっきり地理的にどこからどこまでというのではないのです。ただ漠然と日本の周辺となっていました。しかし、重要影響事態法では、この「我が国周辺」という言葉を外したのです。そうすると、日本の平和と安全に危険を及ぼすと政府が判断すれば、世界のどこにでも自衛隊を出すことになるのです。中東のホルムズ海峡にでも出せることになります。つまり、安保法によると、自衛隊をどういうときに、どこに出すかは、内閣が総合的に判断するということになります。
3)「自衛隊が他国軍の後方支援をする」とは?
最後に、自衛隊は何をするのかです。自衛隊は原則として武力行使はできません。そこは憲法9条がまだ歯止めになっています。重要影響事態法では、米軍隊などの「後方支援活動」を行うとあります。それでは「後方支援活動」とは何でしょうか。
戦闘現場には行かないのです。戦場の後ろで米軍などの支援活動をする。例えば、食糧、弾薬、燃料などの補給です。これを普通、「兵站(へいたん)活動」といいます。これは作戦には不可欠なものです。弾薬、食糧がなければ戦争はできません。「腹が減っては戦ができぬ」です。今は燃料がなければ戦争はできません。軍艦、戦闘機、戦車全て燃料が必要です。それを補給するのが「後方支援活動」です。後方支援、兵站活動は、戦争と一体化した活動です。戦争になれば前方も後方もないのです。戦争そのものです。自衛隊がこんな活動をすれば、相手国から攻撃されます。自衛隊員のリスクが高まります。この後方支援を行うとき、自衛隊員の身体、生命を守るために必要があるとき、武器を使用するとしています。武器の使用とは戦闘行為です。
この後方支援で何を提供するのかをめぐって、国会でいろんな議論がありました。後方支援ということで、武器・弾薬は提供するのかという野党の質問に、政府は言うのです。武器は直接戦闘で使われるから外国軍隊に提供できない。だが、弾薬は消耗品だから提供できるというのです。小銃は提供できないけど、弾薬は提供できる。なぜなら弾薬は消耗品だからというのです。それじゃ核兵器はどうかと聞くと、核兵器も消耗品だ、法律上は提供できる。しかし、わが国は非核三原則があるので、国策として核兵器は提供しない。こんなばかげたことを国会で言うのです。これは、中谷元・防衛大臣の発言です。
それから燃料の補給。米軍のヘリコプターが、戦闘中に給油のため海上自衛隊のヘリコプター空母に着艦して燃料の補給を受け、また戦闘現場へ行く。こんなことはできるのかと聞くと、それはできるというのです。戦争になればこんなことは当たり前です。戦闘現場ではない「後方」でも、戦闘機や戦車、軍艦への燃料補給は戦闘行為そのものなのです。こういうことが法律上もできるようにする安保法は、まさに「戦争法」そのものです。憲法違反です。(続く)