上智大学の中央図書館(東京都千代田区)で、「学生が見た、上智大学の戦前・戦中・戦後」と題し、戦前から戦後にかけての同大のキャパスや学生の様子を伝える写真や資料が公開されている。展示されているのは、同大史・資料室が所蔵するもので、5月にマスコミで働く同大OBを中心にしたマスコミ・ソフィア会により開催された「写真展と体験者講演」に引き続き、戦後70年を機に企画された。
図書館のフロアに設けられた展示場は、「戦前」「戦中」「戦後」と時代区分に分け、学生がその時代の中で戦争にどのように巻き込まれていったのかを15点の写真と、資料から知ることができる。同大は、1928年に大学令により専門学校から大学に昇格した。それにより、陸軍で幹部候補生となる資格が与えられる特典を持つ学校教練がなされることになった。校舎の前を、銃を担ぎ行進の練習をする学生たちの姿や、足にゲートルを巻き、防具を身に着け、手にやりを持ち、敵に向かっていく練習風景を写した写真を見ることができる。
43年6月に学徒戦時動員体制となり、多くの学生が学徒出陣で戦地へ駆り出されていくようになるが、同大でも学生が戦地へ駆り出された様子がうかがわれる。42年9月には、徴兵のため繰り上げて卒業式が行われており、卒業見込者名簿やそこで読まれた答辞が現物のまま展示されている。この答辞は、資料室で偶然見つかったもので、「ペンを銃に変え国のために働く」と記した学生の答辞は今回の展示の目玉の一つとなっている。
また、一般公開はまだされていない貴重な資料として、同大における日中戦争・アジア太平洋戦争戦没者名簿も展示されている。これは、今回の展示の監修・協力者の一人である同大文学部史学科の長井伸仁教授が、今年1月から5月にかけて調査し作成したもの。これによると出兵した学生の数は700人で、そのうち68人が戦地で命を落としていることが分かる。
さらに、32年秋、一部のカトリック信者の学生が軍事教練で靖国神社の参拝を拒否したため、配属将校が同大から引き揚げるという、いわゆる靖国神社非参拝事件についても展示の中で触れられている。この事件は、日本のカトリック教会全体に影響を与えることになるものだが、今回の展示では、事件の発端である「参拝しなかった理由」がいまだ明らかになっていないことに注目している。靖国神社非参拝事件をはじめ、江戸後期・明治時代の神道史の研究に取り組むケイト・ワイルドマン・ナカイ同大名誉教授は、この事件についてはまだ研究し尽くされていないと語っている。
一方、35年の大学案内には、ジョージタウン大学(米国)、ケルン大学(ドイツ)への留学のことも掲載されており、戦争に向かう時代でありながら、同大の母体であるイエズス会ネットワークを生かした国際化が当時から既に始まっていたと説明されている。このことは、戦時中の卒業見込者名簿の中に当時日本の植民地であった韓国、台湾からの学生がいたこととも関係しているという。
展示を企画した同大史・資料室では、「今回の展示を通して当時の先輩の思いや様子が今の学生に少しでも伝わり、戦争についてのみならず、生きること、学ぶことについて考えるきっかけとなれば、という思いで企画をした」と話している。また、史・資料室には他にも同大に関係する貴重な史・資料が残っており、これからも公開・活用していきたいという。
展示は、同大四谷キャンパス中央図書館1階で9月3日(木)まで。詳細については、同大総務局広報グループ / 史・資料室(電話:03・3238・3294)まで。