キリスト者や仏教者などがつくる平和運動団体「宗教者九条の和」は2日午後、参議院議員会館で「武力で平和はつくれない 戦争法制反対! いのちと憲法9条を守ろう!『宗教者祈念集会』」を開き、イスラム教徒も含む約80人の参加者たちが、「言論弾圧と沖縄侮辱に強く抗議します 安倍首相の責任逃れは許されない 緊急抗議声明」を採択した(全文はこちら)。
この声明で参加者らは、6月25日に自民党本部で開かれた同党の若手議員の勉強会における議員や作家の百田尚樹氏の発言について、「真実真理を大切にし、命の尊厳を守る私たち宗教者は、言論弾圧と沖縄侮辱に強く抗議し、安倍首相の責任の明確化を求めます」などと述べ、「全国の宗教者が、祈りと行動を通して戦争法制廃案に向けて全力を傾けるよう、強く呼びかけます」とした。
この集会の初めに、日本カトリック正義と平和協議会会長の勝谷大治司教があいさつし、「日本カトリック教会は、全教区の司教が一致して戦後70年のメッセージを発表し、その中で改憲の流れ、あるいは解釈改憲に対しての強い懸念を表明している。だから当然今回の安全保障関連法案に対しても強く反対するメッセージを発している」と語った。
また、「宗教団体がこのような政治的な法案に対して反対の意思を表明するというのは、それに対して内外からいろいろな意見はあるが、私たちはあるイデオロギーに基づいたり、ある政党を支持したりという立場ではなく、いのちの問題だから、私たちカトリック教会はこのいのちの問題に対して沈黙していることはできない」と語った。
勝谷司教は、「今回の法案が通ると、これは日本の国民を幸せにするどころか、いのちが奪われる。そう考えている。だから強く反対している」と話し、「3人の憲法学者が『違憲』と言って以来、明らかに潮目が少し変わってきたと感じている」と付け加えた。
その上で勝谷司教は、「安倍政権は延長国会を乗り切って法案を成立させようとしているようだ。数の力で結局は・・・と懸念していたが、私たちが強い反対の世論を形成していくならば、それをもって廃案に追い込むことが可能ではないかという希望も感じるようになってきている。だから皆さんと連帯してともに反対の意思を表明しながら共に闘っていきたい」と結んだ。
また、高田健氏(許すな!憲法改悪・市民連絡会)は、「国会内外のたたかいが結びついて、安倍政権を追いつめている」と題して情勢報告を行った。高田氏は、1)戦後最大幅の国会会期延長、2)国会内外が呼応したたたかいの高まりが、安倍政権をここまで追いつめた、3)この国会での戦争法案をめぐる与野党の論戦は、6月4日の憲法審査会での論議を境目に「潮目」が変わった、4)「(安全保障)環境の変化」という欺瞞(ぎまん)、5)自衛隊員の殉職と戦死についての安倍首相の欺瞞、という5つの点について論じた。
その上で高田氏は、「ぜひ皆さんと協力しながら、歴史に残るような、責任を持てるような運動を、お互いに力を尽くしていけたらいいかなと思っている」と語った。
与党は、衆議院特別委員会で安保法制案の採決を15日ごろに行うのではないかと報道されている。一方、高田氏はこの報告の中で、日本の自由で民主的な社会を守る学生を中心とした運動「SEALDs」に言及した。この運動は、毎週金曜日の夜7時半から国会前で数千人規模の集会を行うなど、東京や京都などをはじめとして全国に向けてその活動を広げつつある。
日本キリスト教協議会(NCC)議長の小橋孝一牧師は、閉会のあいさつで、旧約聖書のイザヤ書31章1節「災いだ、助けを求めてエジプトに下り / 馬を支えとする者は。彼らは戦車の数が多く / 騎兵の数がおびただしいことを頼りとし / イスラエルの聖なる方を仰がず / 主を尋ね求めようとしない」と、同3節「エジプト人は人であって、神ではない。その馬は肉なるものにすぎず、霊ではない。主が御手を伸ばされると / 助けを与える者はつまずき / 助けを受けている者は倒れ、皆共に滅びる」を読み上げた。
「要するに、人間の力、しかも武力によって、自分たちを守る。そのために武力の強い者でがっちりと同盟を組んでやっていく。そういうことは旧約聖書の昔から普通に行われていた。それに対してこう言っている。『それは実際の力ではない』。主が御手を伸ばされると、聖書の神がそのような者に対して本気になって対応をなされる。『助けを与える者はつまずき』というのは、これは同盟の相手であり、当てにされているエジプトのこと。『助けを受けている者は倒れ』というのは、助けを受けようとしているユダのこと。両方とも倒れる」と小橋牧師は説明し、「今のわれわれの情勢でいえば、米国も倒れるし、日本も滅びる。そういうふうに言っている」と付け加えた。
小橋牧師はさらに、「その当時、襲ってくるといわれている相手はアッシリアという国。アッシリアをどうするんだということに対してまた書いている。『アッシリアは倒れる / 人間のものではない剣によって。人間のものではない剣が彼らを食い尽す』(イザヤ31:8)。同盟を組んで解放しなければいけないと言っている相手も倒れる。こう言っている」と説明。「これが私たちの立脚点ではないかと私は思う」と語った。
その上で小橋牧師は、「日本の国だけが戦争をしなければいいというだけではない。戦争をする国と同盟を結んで軍事基地を提供してやってきた。そしてさらに世界中に向かって一緒に軍事行動をやっていく。この根本のところから間違っているんだということをはっきりさせなければいかんというふうに私は思う。歴史の真理に私たちは忠実に立ち返らなければいかん。こういう形でどんなに国が戦争をし、どんなに全ての国が亡んできたか、そのことをはっきりさせなければいかん」と強調した。
そして小橋牧師は、「その点が私たち宗教者が運動を起こす原点だというふうに思う」と述べ、「人間の力だけで、人間が力を合わせて武力同盟を結べば平和がくる、そういうことは歴史的なウソだ。何千年にもわたって人間の歴史はそれを立証してきた。それをまたやろうとしていることはどんなにとんでもないことか」と語気を強めた。
「宗教者九条の和」の事務局で日本山妙法寺僧侶の武田隆雄氏は、「平和をつくり出す宗教者ネット」による今月の署名が418筆、今までの合計が10万7258筆となったと報告した。
集会後、参加者らは参議院議員会館前で平和祈念行動を行い、「安倍政権はウソをつかないでください。戦争法案を平和安全法制案と言わないでください」などと訴えた。
武田氏は、毎週木曜日午後6時半から衆議院第2議員会館前で「戦争法案反対国会前集会」を行っている「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」への参加を呼び掛けた。勝谷司教はこの日の夜、同集会でスピーチを行った(動画)。
司会を務めた「平和を実現するキリスト者ネット」(キリスト者平和ネット)前事務局代表の鈴木伶子氏は、「私たち全力を挙げなければいけないなと思っている。自分の周りにいる子どもたちから『あの時どうしてこうしちゃったの?』と言われないでも済むように、自分が悔いないためにも、最善を尽くしたい」と語った。
なお、キリスト者平和ネットは、日本同盟基督教団が6月25日に発表した「安全保障関連法案についての声明」を公式サイトに掲載している。