東京都武蔵野市にクリスチャンの市議会議員が誕生した。直木賞作家の志茂田景樹さん(75)の息子で、昨年、『タクシー運転手になって人生大逆転!』を出版した下田大気(ひろき)さん(38)だ。選挙事務所を構えるのでもなく、奇抜なファッションで知られる父親と毎朝一緒に駅前に立つ“父子鷹”選挙との世間の声も全く気にすることなく、市議会議員としての務めを神から与えられた新たな「召し」だと信じて、選挙戦を戦った。自身も幼い頃から親しんできた児童館の存続など、地元出身者ならではの目線に立った公約を訴え、まさに“祈りをもっての選挙戦“を勝ち抜いた大気さんに今の心境を聞いた。
4月26日に投開票が行われた武蔵野市議会議員選挙。37人の候補者が26の議席をめぐって争い、大気さんを含む新人7人と現職17人、元職2人が当選した(投票率46・96%)。
この選挙に無所属で立候補した理由について、大気さんは、「神の招きによってどのような希望が与えられているか、聖なる者たちの受け継ぐものがどれほど豊かな栄光に輝いているか悟らせてくださるように」(エフェソ1:18)の聖句を掲げる。そして、「僕は、クリスチャンとして、ただ『天国に行くため』だけに地上での生活を全うするのではいけないと思う。そうではなく、クリスチャンとは、神様の招きに向かって、希望を持って働くことこそが必要だと感じています。そのために市議会議員として活動したいと願ったんです」と明確な言葉で語った。
父親の志茂田景樹さんは、奇抜なファッションや言動で有名な人物。選挙戦では、この父が、朝夕とおなじみの色鮮やかなタイツ姿で、大気さんと共にマイクを持って駅前に立ち、息子の熱い思いを一緒になって届けてくれた。大気さんは「心から感謝しているとしか言えない」と話す。少ない言葉からその深い感謝が伝わってくる。
“選挙事務所“は自宅のリビング。そこを拠点に、父以外にも志を同じくする旧友や近所の人々、タクシー運転手仲間らが手弁当で助けてくれた。ひたすら駅前に立ち続けた日々を大気さんは、「毎日、たくさんの方と会話をしたり、あいさつをしました。その一人ひとりが、神様の愛に気付き、立ち返ってくれればいいなと心の底から思いました。本当に祈りながらの選挙戦でしたね」と感慨深げに振り返る。
大気さんにとって、もちろん教会は大きな拠り所だった。武蔵野市内の教会はほとんど回り、応援の声に励まされた。「中でも、『祈ってますよ!』という声は、特別嬉しかったですね。『祈り』はわれわれクリスチャンの最大の武器であり、下田陣営の最大の戦略だったかもしれません」と微笑む。
当選の瞬間は、自宅リビングに両親と近しい友人2人と共にいた。得票数は1363票。両親も当選を心から喜んでくれた。「タクシーも、議員も、ある意味、人の命を預かっている仕事だと思う。無所属で地盤もなく、何の後ろ盾もない僕に、こんなにたくさんの方々が期待し、投票してくれた。その票の重みを考えるとすぐには言葉も出なかった」としみじみ。本来、喜びが爆発するはずの瞬間、大気さんの心は不思議なほどに冷静で、「ただ神様と、僕を選んでくれた人々に感謝するしかありませんでした」と謙虚に語った。
今後の政策については、まず、武蔵野市に一つしかない児童館の他施設への転用を回避することという。この児童館には、大気さん自身も幼い頃に通い、多くの思い出がある。「子どもも大人も、十人いたら、十人が全く別の人間。児童館では、いろいろな友達と会い、話したり、遊んだり、時に喧嘩したり・・・それら全てが僕の人生の一部になっていると思う。母も、この児童館で『ママ友』を作って、育児の相談をしたりしたようだし。僕は、児童館がなくなるのは断固反対!選挙戦の中で、小学生から『児童館を守ってね』と言われたときは、胸が熱くなりました」と、この問題と向き合う表情は真剣だ。
その他には、高齢者やシングルマザーらの支援をしていきたいと考えている。「神様の栄光を現すために、僕は新たな『召し』を全うしたいと思います。武蔵野市は、緑も多く、『日本一住みたい街ランキング』で常に上位に上る吉祥寺があります。神様の愛と恵みによって、この『日本一住みたい街』をより良いものにしていきたいですね」と抱負を語った。