「人生は出逢(であ)いで決まる。~受刑者たちと出逢って~」と題するトークイベントが4月23日夜、東京都渋谷区のバーで開催され、受刑者のトータルサポートを行うNPO法人マザーハウスの理事長である五十嵐弘志さんと、イエスのカリタス修道女会の大野祐子シスターが対談した。シスター大野は、修道会の宣教担当として受刑者との文通を推進し、修道会の聖歌隊「スモールクワイア」の一員として、刑務所や少年院などでコンサート活動を行っている。五十嵐さんとシスター大野、それぞれが見る刑務所、受刑者について話が展開された。
「出逢い」がテーマのトークイベント。実はこの企画そのものがさまざまな出会いの重なりによって実現した。立案したのは、カトリック松原教会(東京都世田谷区)の末森英機さん。アルコール依存を断つ病棟や、精神病院への入院経験のある末森さんは、自称”やんちゃクリスチャン”だが、ある時「お前と似たような悪いやつがいる」と紹介されたのが、五十嵐さんだった。末森さんは昨年10月、自身が企画したCDアルバム「ぼくのゆめは・・・『空が青いから白をえらんだのです〜奈良少年刑務所詩集』から」を発売。『空が青いから白をえらんだのです〜奈良少年刑務所詩集』は、れんが建築の美しい奈良少年刑務所で、受刑者たちが一人の童話作家に導かれ、心の奥にしまっていた葛藤や痛恨、優しさといった「閉ざされていた思い」を言葉で紡いだ詩集。まさに「奇跡のような詩集」として有名な作品で、末森さんはそれをCD化したのだ。
その際、歌い手としてアルバムづくりに参加したのが、イエスのカリタス修道女会のスモールクワイア。その中にシスター大野もいた。さらに、そのCDのディレクターが経営する店が、今回の対談の会場となった渋谷区のバー「CROSS ROADS」だった。受刑者との関わりをテーマに、しかもシスターがバーを訪れるという、あまりないシチュエーションで行われた今回の企画は、そのような経緯の中で実現したのだ。
末森さんは、五十嵐さんとシスター大野に対談を持ちかけた理由を、「2人が思いやりの天才」だからだと説明する。2人を通して、人と人とのつながりの中におられる神を体験してほしかった、と言う。
自身も刑務所に入っていた経験を持つ五十嵐さんにとって、シスターと言えば、もしも娘が生まれたらシスターへの道を勧めたいと思うほど憧れの存在だった。刑務所にいた頃から「シスター=清い人」というイメージを抱いていたと言い、対談では「そんな人の隣に座っていること自体が、すみませんという気持ち」と緊張を隠せない様子だった。
一方、シスター大野は、そんな五十嵐さんを優しく見やりながら、シスターとして、受刑者たちと関わりを持つことに何の抵抗も感じなかったですよ、と笑顔で答えた。イエスのカリタス修道女会の創設者であるイタリア人司祭アントニオ・カヴォリ神父は、第一次世界大戦期、傷ついた兵士たちに仕える従軍司祭だった。その「魂の救いのため、どんな状況にある人にも愛の手を差し伸べるDNA」が、現在の修道会にも受け継がれているのではと述べ、受刑者と関わることがシスターとして普通の行いであることを説明した。
7人きょうだいの長女に生まれたシスター大野は、「お姉さんたちとの生活」に憧れを抱き、小学生の時、修道会の養成所に入った。起床時刻の午前5時20分にチャイムが鳴ると、「神に感謝」と言いながらベッドから飛び起きたそうだ。その話を聞いて五十嵐さんは、修道院の生活が刑務所での生活と変わらないどころか、「むしろ、刑務所より起きるのが早いじゃないですか」とびっくりした様子。会場が笑いに包まれた。
対談で五十嵐さんは、悪い事をしたと自責の念にかられるとき、受刑者たちが泣きながら口にするのは「おかあちゃん、ごめんなさい」という言葉だと述懐。赦(ゆる)されることに対して、非常なまでに"飢え渇き"がある受刑者たちにとって、聖母マリアを連想させるシスターたちが、文通やコンサート活動で関わりを持ってくれることは、大きな心の支えになったと語った。
シスター大野はそんな五十嵐さんに、神は裁く神ではなく、愛と赦しの神であり、人を赦したくて赦したくて仕方のない神であることを伝えていきたいと応じた。自身についても「キリストのように、考え、話し、行動することができるようになりたい。永遠の課題ですが・・・」とわが身に言い聞かせるように話した。
司会を務めた末森さんは2人の対談を受けて、「五十嵐さんやシスターの働きを見ていると、『牢にいたとき、小さい者の一人を訪ねてくれたのは、私にしてくれたことなのだ』というイエス・キリストの言葉がいつも思い浮かぶ」と顔を引き締め、「教会だけでなく、教会の外にいる多くの人にもこのような愛の実践を知ってもらいたい。そのためにこのような企画を各地で開いていきたい」と決意を語り、イベントを締めくくった。
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