国連安全保障理事会は25日、湯川遥菜(はるな)さんがイスラム国に殺害されたとみられることについて、武装組織の一般市民に対する残虐な行為は「明白な殺人」だとして、遺憾の意を表す声明を発表した。15カ国からなる理事会は、今回の日本人人質事件を、「凶悪かつ卑劣な行為」と強く非難し、後藤健二さんの即時解放を要求した。また、声明では、イスラム国、ヌスラ戦線など、アルカイダに関係する全ての過激派組織に対する「即時、かつ安全で無条件の人質返還」も求めており、国際人道法に従って、ジャーナリスト、メディアプロフェッショナルなどの武装地帯で危険な任務に従事した一般の人々が、「尊敬され、保護される」べきであるとの考えを示した。
声明は、「この犯罪は、ジャーナリストを含むシリアの人々の直面している危険性が、日々高まっているという悲劇を、あらためて思い起こさせる」「シリアとイラクの人々に対して残酷な行為をしているイスラム国の残忍さをあらためて示している」などと指摘した。
さらに、このような「正義の名の下で行われている非難すべきテロ行為」の犯人は、連れ出されて湯川さんの死の責任を取るべきだと強調。犠牲者の家族、日本政府、イスラム国の全ての犠牲者に対する心からの同情と哀悼の意を表明した。
声明はまた、日本人人質事件以外のイスラム国の活動についても言及。イスラム国は、シリアとイラクで、いわゆるシャリア法により定められているカリフによる恐怖政治を確立しようとしており、イスラム国のルールに違反したり、イラク政府を支持する疑いがある一般市民の多くが犠牲となっているとしている。
定期的に、打ち首・磔刑(たっけい)・石打の刑を含む残忍で冷酷な処罰が実行されており、最近では、イラクの都市モスルで、2人の男性が同性愛行為を非難され、ビルの一番上から投げ落とされたり、イスラム国の兵士の治療を拒んだ医師4人が殺害されていると実例を挙げた。
「イスラム国は打ち破られなければならない。不寛容、暴力、憎悪は根絶されなければならない」と、各国政府や関係機関の協力を呼び掛け、国連憲章に従って、世界平和と安全の脅威となっているテロ行為に、全ての手段を使って戦う必要があると断言した。
日本国内のフリージャーナリストによる団体、日本ビジュアル・ジャーナリスト協会(JVJA、東京都千代田区)も、「IS(イスラム国)による日本人人質事件に対する声明」で2人の解放を呼び掛けていたが、25日、あらためて緊急メッセージをイスラム国および日本政府に向けて発表した。日本語、アラビア語、英語で、「暴力では何も解決しないと声明を通じて訴え続けてきましたが、残念ながらその願いは踏みにじられました」とし、後藤さんの解放、イスラム国と日本政府の真の交渉を引き続き訴え、「両者の非暴力による対話は、十分に可能なのです」と呼び掛けた。
このほかにも、日本外国特派員協会(FCCJ、同千代田区)、在日ムスリム団体「イスラミックセンター・ジャパン」(同世田谷区)などが、日本人人質事件、湯川さん殺害を非難する声明を発表している。
24日にインターネット上に投稿された湯川さんを殺害したとするイスラム国の画像は、信ぴょう性が検証されているが、イスラム国がインターネットなどで発信しているラジオは、この画像について25日、「警告したとおり日本人の人質を殺した」と伝えた。イスラム過激派組織の動向に詳しい中東調査会の高岡豊上席研究員はNHKの取材に応じ、「日本人の人質の殺害を伝えたのは『イスラム国』の宣伝媒体の一つである『バヤーン』というラジオ部門で、24日の音声メッセージとは異なり『イスラム国』として伝えていることには意味があると思う。ただ、2人が映っていた動画やこれまでの人質の殺害などについては『フルカーン』という『イスラム国』の中でも最も古い広報部門が発信していて、今回なぜこれまでと違う形式をとっているのかは分からない」と話した。
一方、ロイター通信によると、後藤さんが所属する都内の教会では、警官3人が警備する中、100人以上が集まり、同教会の牧師は「きょう祈るときに、どうか、後藤健二さんと湯川遥菜さんを皆さんの思いにとどめてください」と語った。後藤さんは昨年8月、湯川さんがイスラム国に拘束された可能性が伝えられてから数日後、同教会を訪れ湯川さんのために祈っていたという。