イタリア中部フィレンツェ一帯で、先月末から続いている地震によりミケランジェロの代表作「ダビデ像」が倒壊の危機に直面しているという。
ダビデ像は、15世紀から16世紀まで活躍したイタリアの芸術家ミケランジェロの代表作。旧約聖書の1サムエル記に登場する物語をモチーフに作られた。イスラエル軍に従軍している兄に食事を届けに来た羊飼いの少年ダビデ。イスラエル軍の陣地に着いたダビデが目にしたのは、ペリシテ軍の英雄ゴリアテに恐れをなして震え上がっているイスラエル軍の姿だった。
これに憤慨したダビデ少年は周囲の反対を押し切って出陣を決意。イスラエルの王サウルに、「(襲われた羊を助けるために)ライオンも熊も、こうしてやっつけてきました。あの神様を知らないペリシテ人だって、同じ目に会わせてやります」と啖呵(たんか)を切って出陣した。
一方、ゴリアテは向かってくる戦士が少年だと知ると、「さあ、来い。おまえの肉を鳥や獣にくれてやるわい!」と挑発。ダビデは「おまえは剣と槍で立ち向かって来るが、ぼくは天地の主であり、おまえがばかにしたイスラエルの神様のお名前によって立ち向かうのだ」と言い返し、投石の狙いをすませる。ミケランジェロのダビデ像は、まさにその場面を表現した作品だ。
世界中でよく知られるこの大逆転劇の一コマを、ミケランジェロは1501年から3年の歳月をかけて制作。ルネサンスを代表する傑作と呼ばれるに至った。しかし、現在のようにフィレンツェ市のアカデミア美術館の屋内に移して展示されるようになったのは、完成後300年以上経った後の1873年のこと。それまでは、同市内にあるベッキオ宮殿の前に野ざらしで展示されていた。
かねてからその足首部分に微小な亀裂があり、倒壊の危険が指摘されていたという。2004年には、亀裂部分に接着剤をしみ込ませて修善を試みたが、十分な成果は得られていないようだ。
地震学者の島村英紀・武蔵野学院大学特任教授は、ニュースサイト「zakzak」で、ダビデ像の倒壊危機についての記事を執筆し、「そもそも6トンもあるこの巨大な彫刻の重量を細い足首で支えているものだから、地震にはとても弱い構造なのだ。じつは屋外展示の間に5度ほど傾いてしまった。もし傾きが15度にもなると、足首が折れて自重で倒れてしまうという計算もある」と述べている。
これまでところ、イタリアで最近発生している地震で最大のものはマグニチュード4・1だが、イタリアは欧州では珍しく地震が多い場所だ。地震対策のため、ダリオ・フランチェスキー二文化相は昨年末、ダビデ像の台座に国家予算20万ユーロ(約2900万円)を投じて耐震対策を施すと発表した。