ゴムや布、毛糸などでできたアヒルが、ここ8カ月の間に、世界56カ国で2300個以上発見されている。これらの多くには、お金や小さなカードが一緒に添えられていた。
アヒルに添えられた小さなカードには、「小さな黄色いアヒルプロジェクト(The Little Yellow Duck Project)」のウェブサイトのURLとQRコードが印刷されており、アヒルを見つけた人がそのページにアクセスして情報を得ることができる仕組みになっている。カードには誰がキャンペーンに携わっているのかという情報は一切書かれていない。しかし23日、キャンペーン関係者の女性2人が正体を明らかにし、この謎が解けることになった。
英ケンブリッジシャー州ピーターバラ市のアン・ロークリフさんとエマ・ハリスさんは、ロークリさんの娘で、またハリスさんの親友であったクレア・クリュックシャンクさんの死後、このアイディアを思いついた。クレアさんは、肺移植のドナーが見つからないまま昨年4月15日、嚢胞(のうほう)性線維症(CF症)のために26歳でこの世を去った。
クレアさんは、亡くなった場合、自身の臓器を提供することを望んでおり、彼女の角膜は2人の患者へ移植された。ロークリフさんとハリスさんは、最愛であったクレアさんの臓器提供への意思を引き継ぎ、小さな黄色いアヒルプロジェクトを通して、これを広めることを思いついたのである。
キャンペーンは、彼女たちの地元で、かぎ針で編んで作ったアヒルの人形をどこかに置き、誰かに見つけてもらうということから始まった。優しさの連鎖でつながるこの行為はすぐに人々の間で広がっていき、中には見つけたアヒルにお金を添えて、再びアヒルを置いて行くという人も現れた。アヒルと一緒に発見される額は、たいてい15~80ドル(約1800~9600円)。
アヒルは、「こんにちは。ぼくを家に連れて帰ってね。ぼくはあなたのために、愛を込めて作られました」などのメッセージと、キャンペーンのウェブサイトの情報が載せられたカードと共に、オーストラリアやペルー、日本、ナイジェリア、インドをはじめとするさまざまな国で発見されている。
自身も嚢胞性線維症であるハリスさんは、キャンペーンの意義を次のように説明する。
「このアヒルたちは、色々な方の親切な行為の連鎖から、実に多くの人々の命を、血や骨髄、臓器、また細胞組織移植のための献体、という贈り物を通して救うことができるという深いメッセージを運んでいます」
また、この取り組みは、クレアさんがまさに望んでいたことであろう、と母であるロークリフさんは話す。
「クレアは、黄色いアヒルが大好きでした。彼女はこれ(このキャンペーン)を気に入ってくれたに違いありません。彼女は面白いことが好きでしたから」と振り返る。「アヒルは、とても陽気であったクレアのことをよく表しています。これらが私を、クレアがまだここにいるのではないかという気持ちにちょっとだけさせてくれます」
「私たちは、本当に世界制覇をしたい!」と、プロジェクトの広がりを見てロークリフさんはこう話す。「これ(世界を制服したい!)は、クレアが子どものころ、大きくなったらどんなことをやりたいかと尋ねられたとき、彼女がいつも言っていたことなのです」