神戸市で19日、第56回神戸市民クリスマスが行われた。毎年恒例となっているのが、教派を超えて市内のさまざまな教会を練り歩く「キャロリング in Kobe」だ。神戸市にはキリスト教各派の教会が約160もある。以前は市の文化ホールで音楽などの文化イベントとして行っていたが、せっかくなら、たくさんあるそれぞれの教会を回り交流しようということで、始まったとか。街を歩くことで、通りすがりの人も参加できる。それをきっかけに、キリスト教徒でない人にも教会に来て本物の礼拝を体験してもらえたら、というのが狙いだという。
今年のキャロリングは、JR新神戸駅から歩く北野コースと、元町コースの2つに分かれて歩いた。記者は5つの教会を歩く北野コースに参加した。午後5時、辺りも暗くなり気温は3度、凍てつく寒さだ。新神戸駅の集合地点に集っていたのは、年配の男女から20代の若い女性まで20数人ほど。真っ赤なサンタクロースの帽子をかぶり、駅前の広場で「まきびとひつじを」を歌っていると、足を止め歌に聞き入る人の姿も。「では行きましょう」と、”神戸市民クリスマス”“キャロリング”と書かれた青い旗を先頭に一行は出発した。
まず初めに訪れたのは、歩いて5分ほどの日本基督教団神戸聖愛教会。1882年に北野町で、北米のバプテスト派宣教師によって伝道が始められた歴史ある教会だ。現在の聖堂はロマネスク様式のレンガ造りで、入り口には可愛らしいクリスマスツリーも飾られている。同教会の教会員たち十数人が出迎えてくれ、共に「きよしこの夜」を歌った。数曲を歌い終わると、同教会の牧師が「クリスマス、おめでとうございます!」と声を掛け、クラッカーが鳴った。
新神戸の北野通りの坂を上り、次の教会に向かう。日はすっかり暮れてしまい、吐く息も白い。前を歩く年配の女性3人は「毎年、普段行かないよその教会も行けるから楽しいのよね」と会話が弾み、元気だ。
歩くこと15分で到着したのは神戸バプテスト教会。米南部バプテスト連盟の宣教師と信徒が、戦争で焼け野原になっていた、クリスチャンの洋画家小磯良平邸宅跡地を譲り受け、1952年に建てたコロニアルスタイルの教会堂だ。白壁にアーチ型の入り口が親しみやすい。もみの木の飾りが飾られた教会正面で、「きよしこの夜」を歌う人数は少しずつ増え40人近くに。
続いて異人館通りを歩く。この付近は幕末の神戸港開港後、外国人居留地として整備され、南の港を一望できる通りに沿って外国人住宅が立ち並び、辺りが異人館と呼ばれたことから名前が取られたという。今でもブティックやレストランが立ち並ぶおしゃれな通りだ。
歩くこと15分、到着したのはカトリック神戸中央教会。阪神大震災で被災した3つの教会が統合して2004年に建築された。すぐ近くには旧国立移民収容所があり、1930年代以降まだ貧しかった日本から延べ25万人もの人々がこの地から南米ブラジルなどに移民として渡った。作家石川達三がその移民収容所を訪ね、小説『蒼氓(そうぼう)』を書き、第1回芥川賞を受賞したことでも知られている。『蒼氓』には、零細農家の移住希望者が収容所の中で体格や血液検査、ブラジル語講習を受ける中、教会の神父が宗教講話に訪れ、十字架を渡す風景も描かれている。そして 同教会は現在も日本人信徒の他に、ベトナム人やブラジル人などもミサに通う、国際色豊かな信仰の場となっているという。
教会の入り口に飾られた幼子イエスの生誕を再現した人形セットの前で、「荒野の果てに」を歌っていると、「一緒に歌っていいですか?」と声を掛けてくる通りがかりのOL風の女性の姿も。「どうぞ、どうぞ」と歌詞カードとペンライトを渡す。この頃には人数も増え、約50人ほどになっていた。
さらに三宮の繁華街を通りぬけて向かったのは、日本基督教団神戸栄光教会。関西学院大学の創設者でもある南メソジスト監督教会の宣教師W・R・ランバスによって1886年に創設され、“赤レンガの教会”として神戸市民に親しまれてきたが、阪神淡路大震災で全壊。2004年に再建された教会だ。
いつのまにかキャロリング隊には、親子連れの姿もちらほらと加わり、80人近くにもなった。教会の前で教会員と合流し、「いそぎ来たれ、主にある民」を唱和した。
そして、歩くこと10分。ようやく最終地点、今年の会場となる日本聖公会神戸聖ミカエル教会に午後6時半に到着した。こちらは、1876年に来日した、神戸松蔭女子学院大学の創立者でもある英国聖公会のH・J・フォス宣教師によって創立された。太平洋戦争中、神戸大空襲で消失した後、1959年に現在の場所に建てられた。臙脂(えんじ)のじゅうたんの前に、十字架と茨の冠が飾られた落ち着きのある美しい教会だ。
聖堂の前で元町を回っていたグループと合流すると、人数は250人にも膨らんだ。最後に、もう一度「まきびとひつじを」を歌う。ノエル、ノエル、ノエル、ノエル♪という歌声が、すっかり寒さと闇に閉ざされた辺りに響き渡り、最後には「メリークリスマス!おめでとうございます」と、みなでクリスマスを祝う掛け声を合わせてキャロリングは終了した。
同教会の庭では、教会員が温かい豚汁と軽食を用意してくれており、頬張ると体と心がすっかり温もった。
神戸は市内に多くの教会があり、三宮はこの他にも、正教会やユダヤ教のシナゴーグ、ジャイナ教寺院、イスラム教のモスクなどもあり、宗教銀座と呼ばれる土地だ。歩いて訪ね、教会堂の建築を見るだけでも、それぞれが違う国や違う文化、教派を発祥としながら、それが大事に受け継がれてきたことを感じる。そして、この町のそれぞれの信仰が緩やかにつながり、共存していることも。それが港町神戸の魅力なのだろう。(続く)
■ 第56回神戸市民クリスマス:(1)(2)