3日から10日まで初めて日本を訪れていた世界教会協議会(WCC)のオラフ・フィクセ・トヴェイト総幹事は、9日に日本聖公会管区事務所(東京都新宿区)で行われた記者会見で日本の印象を語り、「日本は世界で非常に重要な国。しかし日本はいま多くの点で危うい国だ」などと述べた。
トヴェイト総幹事は記者団に対し、初めに日本の教会と日本という国が今年、WCCの指導者たちによって2度にわたる訪問を受けたことや、WCC中央委員会が日本に関する3つの問題について2つの声明文を発表したことに触れ、今回の日本訪問は「これがとても適切であったことを示した。日本における正義と平和に関する3つの非常に重要な問題に、世界的な交わりとして、日本にある私たちの加盟教会だけでなく、他のパートナーや他の宗教的パートナーともっと率先して関わるために」と述べた。
トヴェイト総幹事は、「(日本は)正義と平和の問題に関して世界の諸教会にとっても非常に重要な文脈だ。今回は私の初めての日本訪問だったが、私が非常に印象深かったのは、日本が多くのあらゆる資源を持つ国だと聞いていたのが本当だということだ。経済的な資源、技術的な資源、人的資源、そして霊的な資源もある。そして日本人のもてなしの心が私たちに豊かに示された。それから日本の美しさが、その自然や人々の顔に(表れていた)。何もかもが、私たちが見たものからだけでなく、私たちが味わったものから備えられていた」と述べた。
「しかし」とトヴェイト総幹事は続けた。「日本は多くの点でいま危うい国でもある。(日本国憲法)第9条に関して私が出席したこの平和会議(第4回9条世界宗教者平和会議)との関連で私たちが述べた最初の声明文は、歴史に直接関わるのみならず、軍備や兵器の使用に代わって紛争を解決する代替的な国としての日本の役割に関わるものである」
「今日私たちの世界の問題や紛争は、軍備の使用によって解決されることはないだろう。それらはもっとひどくなるばかりで、普通の人たちがもっと被害を受けるだろう」と、トヴェイト総幹事は付け加えた。
「2つ目の声明文は核から解放された世界に関するものだ」と同総幹事は続けた。「日本は国民が核爆弾の使用と原発の炉心溶融による核災害に苦しんできた、世界で唯一の国であるという点で、非常にたぐいまれである」「だから、もし世界で原子力や核兵器が人類と被造世界に対する危険性がどんなものかを本当に知っている国民がいるとしたら、それは日本人だ」と指摘した。
「けれども、私は昨日、福島の人たちに会ってその話を聞いたら、福島の大災害は終わっていないとのことだった。それはこの状況全体の現状に関わる、とてつもなく大きな危険だ。そしてその問題の一部は、これにどう対処するべきかについての公的な発言や政策と、人々が自分たちの日常生活で体験することとの間に、不信感があることだ」と、トヴェイト総幹事は語った。そして、「だから問題は『真実が本当に語られているのか?』ということだ」と問い掛けた。
また、8月にWCC中央委員会が憲法9条の再解釈に関する声明文の中で触れた従軍慰安婦問題に言及し、「私はこの夏、そのうちの一人に会った。彼女たちの問題はもうすでに起きた歴史を私たちが変えられるということではなく、罪を犯した者たちとその被害者の両方の尊厳に関するものだ」と述べた。
「この罪は認められなければならないし、真実が語られなければならない。その罪を犯した者たちや、その罪を犯した者たちの社会のために、そしてその被害者とその被害者の社会のために」と、トヴェイト総幹事は話した。
その上で、「要約して言うならば、日本は正義と平和のうちに生きる国、そして国民として、とてつもなく大きい可能性を持っている。しかしこの役割やこの機会が真のものではないかもしれないという心配がいくらかある」と述べ、日本についての二面的な認識を示した。
「だから、私はここ(日本)にある教会に対して『日本は、あなた方の声を、そして正義と平和に対するあなた方の責務を極めて重要な声として、そしてまた主に進むべき正しい方向を指し示すものとして必要としている』と言ったのだ」と続けた。
「そして世界的な諸教会の交わりもまた、日本の教会を必要としているのだ。これらの問題やその他の問題、とりわけ私が述べたものについて、あなた方が世界に証をもたらすとき、世界的な交わりとして、何が危機であるか、それだけでなく教会がどのようにしてこれらを非常に具体的な文脈の中で直すことができるかを示すことができるだろう」と、世界の中での日本の教会の役割を述べた。
そしてトヴェイト総幹事は、「だから、私の印象は、日本の教会は小さいかもしれないが、それでも非常に重要だということだ」と結んだ。
トヴェイト総幹事は本紙記者の質問に対し、今回実現しなかった広島・長崎への訪問について、「8月に日本を訪問する時間は本当にないと私の同僚が言っていた。そこで私は『広島の(平和)記念式典に参加できるように8月にすべきだ』と尋ねていた。残念ながら、これは今年、実現できなかった。また別の年にできたらよいと思う」と希望を述べた。
その上で同総幹事は、「毎年の記念式典、それも特に70周年記念である来年の記念式典に参加する道を見つけるよう、ぜひとも世界中の諸教会に促したい。そこで、私たちもWCCとして来年どのように代表を送ることができるか検討中だ」と明かし、「私はすでにそれをいくつかの加盟教会、それも特に出席したがっている米国の加盟教会と議論した」と述べた。
また、「世界は広島と長崎を忘れてはならない。そして教会はこの記憶に貢献しなければならない」と付け加えた。
さらにトヴェイト総幹事は、原子力に代わるものについて、「私たちは仙台への訪問に続いて、どのように追究するか話し合う。そして私たちは日本の教会ともさまざまな代案を話し合っている」としながらも、それが具体的に何であるかを述べることは「時期尚早だ」として、言及を避けた。
それでも、「ほんの昨日出会った人たちが非常に大きな代償をもって体験したことが、エキュメニカルな群れがこの問題をどう理解するかということにおいて、真にその一部となることは極めて重要だ」と述べた。
「非常に実際的なことにおいて人々に寄り添うだけでなく、科学的・医学的な貢献をその人々にすることによって、教会はそれに取り組んできた」と述べた。
「だから、私はそこにある他の諸教会が、ありのままの世界の中にいることをどのように示すのかということで、非常に感銘を受けた。それ自体が、非常に重要なキリスト者の証だ」と、トヴェイト総幹事は結んだ。
その他、日本の教会の印象と、日本の教会の具体的な可能性に尋ねられたトヴェイト総幹事は、「どんな教会であれ、それが小さくても大きくても、イエス・キリストを証しするという同じ召命を持っており、キリストは私たちをいのちへと、そして平和をつくる者となるよう、世界に奉仕するよう、そして一致するよう招いておられる」と答えた。
「そして私には、日本の教会がこの招きに従っていることが非常にはっきりと見える。それによって私は多くの感銘を受けた。日本の教会はこの世界的な諸教会の交わりの非常に重要なメンバーだ」と続けた。
その上でトヴェイト総幹事は、「それらの教会にいる多くの人たちがたくさんの資源を持っていることも私には分かる。人的資源や霊的資源であり、それらによって彼らは貢献している」と言い、「日本の教会は日本にとっての賜物だ」と語った。
一方、トヴェイト総幹事は、「(日本の)国民は、それもとりわけ権力の座にある人たちは、(日本の)教会の声に注意深く耳を傾けるべきだ」と話した。また、「私が(日本の)教会に対して本当に望むことは、どうすれば若い人たちにこの非常に重要な交わりや、日本の人たちに対するこの重要な奉仕に加わってもらい、彼らを力づけることができるのかということにも、関心を向けられるようであってほしいということだ」とも述べた。
この記者会見で、司会を務めたWCC中央委員で立教大学副総長の西原廉太氏(日本聖公会司祭)は、トヴェイト総幹事の来日の目的とスケジュールについて、次のように説明した。
「WCCの総幹事の来日というのは15年ぶりで、なかなか日本に来ていただく機会がなかった。トヴェイト総幹事は、8月の来日予定であったが、ご体調の関係で延期になってしまった。WCCが7月の中央委員会で決議した『核のない世界の実現に向けて』『日本国憲法第9条の再解釈について』の、2つの声明を携えての来日という計画であった。
総幹事は残念ながら夏にお越しになれなかったが、その代わり、WCCアジア地域議長であるチャン・サン先生が来日してくださり、首相官邸を訪ねて、菅官房長官に両声明を直接手渡すということが実現した。
そして今回、ついに総幹事の来日が実現したが、それは宗教者9条世界会議に合わせて再計画されたものである。実はスウェーデン、シグトゥーナで、WCC主催の『正義と平和の巡礼』を主題とする協議会が開催中で、総幹事は基調講演を行ってからすぐに日本に向かってくださった。
滞日スケジュールを簡単に紹介すると、12月3日から5日までは宗教者9条世界会議に参加をしていただいて、3日に到着したその日に、WCC総幹事としてWCCがこの憲法第9条についてどのような考えを持っているかということについての発題をいただいた。
そして5日には、会議終了後に平和行進が行われ、総幹事はそれにも参加をされ、最先頭でバナーを持っていただいた。その写真はすでにWCCのオフィシャル・ウェブサイトで世界中に配信をされている。総幹事がそのような形で存在感を示してくださったことで、日本のキリスト教界のみならず、日本の宗教者や平和を願う一般の人々にとっても、大きな励ましとなった。
6日には京都に移動し、龍安寺などのほか、立命館大学平和ミュージアムを訪れ、そこでじっくりと日本の歴史、特に戦争や戦後の歴史について学んでいただいた。
7日の日曜日、朝は日本聖公会の奈良基督教会の聖餐式に参加、説教をいただいた。午後4時から京都のカトリック河原町教会で『平和のための祈り』が開催され、 関西のエキュメニカル関係者はじめ多数の方々が集まった。総幹事からは大変感銘深いメッセージをいただいた。この礼拝式文は良く構成された優れたものであり、この式文と総幹事のメッセージを合わせて、今後、キリスト教関係雑誌などで紹介される予定である。
8日早朝に伊丹空港から仙台へ飛んでいただき、終日、被災地を訪問し、被災地の支援活動に触れ、福島原発に起因する諸問題に取り組んでいるキリスト者の方々のさまざまな証言にも耳を傾けていただいた。
9日午前中は在日大韓基督教会関係者の案内で都内各所を訪問いただいた。午後2時からは日本ハリストス正教会のニコライ堂を訪問した。訪問は総幹事のたっての希望でもあった。ダニイル府主教様も急きょ来臨いただき、WCC総幹事と日本正教会府主教との歴史的対面が実現したのである」
西原氏によると、トヴェイト総幹事は10日午前、成田空港を旅立ち、8日間の来日日程を無事全て終えたという。
西原氏はさらにトヴェイト総幹事の来日を振り返って、次のように語った。
「今回、東京のみならず、関西、仙台を訪問していただき、各地でWCC総幹事が訪問されたということがいかに励ましとなったことか。私たち日本の教会は確かにマイノリティーであり、日本にいると時に孤立感も覚えるが、WCC総幹事が来られることを通して、地方教会の方々も、『私たちの教会は小さいけれども、世界の教会とつながっているのだ』ということを、今回、強烈に実感できたことと思う。WCC総幹事を通して、つまり350のWCC加盟教会、5億6千万人とつながっている。私たちは決して孤独ではないということだ。
京都のレセプションで総幹事が語られた大事な言葉がある。それは日本の諸教会に対して言われた言葉なのだが、それは、『あなた方がWCCなのだ』ということだ。WCC総幹事は、何か遠い宇宙から来た人ではない。『私たちがWCCなのだ』。それは私たちにとって本当に励ましとなった。
今回総幹事と共に来日したキム・ドンソンさん、そしてクム・ジュソプさんという韓国出身の優秀なWCC幹事がおられる。アジアの優れた仲間が、ジュネーブでエキュメニカルな働きに奉仕されている。もちろん韓国教会にとって誇りであるが、それは私たちにとっても誇りだ。こういうアジアの若いエキュメニカル・スタッフが、私たちと世界教会をつなげてくれているということを覚えたい。いつか日本の若い青年が、WCCの本部があるジュネーブのエキュメニカル・センターでフルタイムスタッフとして働けるように、私たちも日本の若い青年たちを励ましたい。
京都でも、若い世代の神学者たちが、トヴェイト総幹事と共に記念写真を撮った。それはきっと、彼女たち、彼らたちにとって鮮烈な記憶となる。いつか彼女・彼らがWCCをはじめとする、国際的なエキュメニカル・ネットワークの中で、日本からの貢献として働ける日が来ることを願いたい。そのような意味でも、今回のオラフ・トヴェイトWCC総幹事の来日の意義は計り知れない。日本の教会としても心から感謝したい」