草の根の農村指導者を養成するアジア学院(栃木県那須塩原市)は15日、同学院内に古民家を再生して新しく建てた「オイコスチャペル」の献堂式を行った。式には、同学院の関係者や日本基督教団総幹事らを含む200人以上が出席した。
同学院は、東日本大震災の被災により、チャペルのあったコイノニアハウスを建て替えたが、新しいコイノニアハウスの中にはチャペルを作ることができなかった。「チャペルの新築を」という声がある中で、国内外の教会の支援を受け、古民家再生のチャペルとして「オイコスチャペル」を完成させた。同学院の校長で理事長を兼務する大津健一牧師は、「オイコスチャペルは、今後アジア学院のスピリチュアルセンターになるものと考えています」と言う。
献堂式は英語と日本語で行われ、大津校長は式辞で、神への感謝と共に、この建築を支援した関係者に感謝の意を表した。そして、「アジア学院ではまた、互いの信仰から学ぶ謙虚さを持って、共に霊的成長を経験することを願っています。私はアジア学院のモットー『共に生きるために(That We May Live Together)』は、この精神の上に立つということを信じています」と述べ、「私たちは信仰と真心をもってこのオイコスチャペルを御前におささげ致します。これを清めて、ただ御名のためにお用いください。この所を祈りの家として、神への賛美と感謝の声を満ち溢れさせてください」と祈った。
チャペル名の「オイコス」は、「家」を意味するギリシャ語に由来する。「古民家を再生したチャペルですので、オイコスという言葉がふさわしいように思います」と大津校長は言う。同学院では、食堂棟の「コイノニアハウス」は、交わりや共に分かち合うことを意味するギリシャ語「コイノニア」から名付けられており、食品加工棟は、天からの穀物を意味する「マナ」から「マナハウス」と呼ばれている。
「新約聖書の中では、オイコスが神の家や神の家族というように使われています」と大津校長。「民族・宗教・文化・言語などの違いはあっても、一人ひとりが神によって創られた大切な存在として受け入れ合い、神の家族の一員として一つの屋根の下に集まるところがオイコスチャペルと考えています」と語り、その聖書的な意味や根拠に触れた。
一方、オイコスから派生したギリシャ語の言葉に「オイクメネー」という言葉がある。「今日、エキュメニズム(ecumenism)、またはエキュメニカル(ecumenical)という英語表記で用いられている言葉です」と大津校長は言い、「オイクメネーは人が住む世界を意味しています。全世界の教会が一つになることを祈りながら、貧困・平和・環境・自然災害・宗教間対話などの人の住む世界の問題に向き合う取り組みを、エキュメニズム、またはエキュメニカル運動と呼んでいます。アジア学院は創立当初から世界の教会とエキュメニカルな関係を大切にしてきました。以上のことから私たちは、新しいチャペルをオイコスチャペルと呼ぶことにしました」と説明した。
大津校長によると、オイコスチャペルは、築110年の民家を小林貞一氏から譲り受け、元の形を尊重して再生した。設計施工者の谷操氏(萬屋代表取締役)とチャペル建築委員会の間で何度も協議を重ねたという。
また、アジア学院キャンパス内に日本の伝統に根ざした建物を建てたいという願いが込められたチャペルであり、今後、朝の集いや祈り会、瞑想、学校行事などに用いる予定だという。
「イエスは第一に大切にすべきこととして、神を愛することを教えられました。そして第二に大切にすべきこととして、自分を愛するようにあなたの隣人を愛しなさいと教えられました。アジア学院では、これらの教えに加えて、土を愛することを大切にしてきました」と大津校長は同学院の理念について述べ、「特に、隣人を愛することは、民族・宗教・文化・国籍などの違いを認め合いながら、互いに他者を尊敬し、愛し合って生きることを私たちに促す言葉であります」と語った。
その上で、「アジア学院コミュニティーでも、また学生たちが属するコミュニティーでも、民族・宗教・文化などの違いによって、分け隔てを作る排他的(exclusive)なコミュニティーではなく、互いの違いを受け入れ合い、尊敬し合い、学び合い、共に食べ物を分かち合って生きることができる内含的(inclusive)なコミュニティーを形作ることを願っています」と語った。
大津校長による式辞の後には、同学院の学生4人が、ヒンドゥー教、仏教、イスラム教の祈りを行い、同学院のゴスペルクワイア「ミンゴス」が主への感謝の歌「Thank You, Lord」を斉唱。頌栄の後、同学院の創設者で名誉学院長である高見敏弘牧師が祝祷を行い、後奏をもって献堂式の第一部が終わった。
その後、第二部では、同学院の遠藤抱一副理事長が関係者に対する感謝の言葉を述べ、谷氏、小林氏、小林氏の長男・大介氏、施工にあたった金澤工務店代表取締役の金澤好雄氏に、大津校長から感謝状が贈呈された。
さらに、日本基督教団の長崎哲夫総幹事、台湾基督長老教会の李孟哲牧師(日本基督教団東京台湾教会牧師)、谷氏、金澤氏の計4人が祝辞を述べた。
その中で谷氏は、オイコスチャペルの設計の話しがあった時のことについて、「『古民家でチャペル』、このフレーズには、建築に携わる者を奮い立たせるものがありました。もちろん私もです」「そしていわゆる一般的なチャペルにしないという条件がなおさらでした」と振り返った。最初の提案時、チャペル建設委員から「そういうものはいりません。いわゆる日本建築、古民家の空間がほしいのです」と諭されたこともあったという。
オイコスチャペルの特徴として丸窓と障子がある。「日本の禅の世界では、丸窓は悟りの窓を意味し、障子で仕切られた四角い窓は迷いの窓を意味すると言われています」と谷氏は説明。「この丸と四角が一体化した形は、ちょうど人の心の状態を表していると言えるかもしれません。スピリチュアルなこの空間にはもしかしたらぴったりなのかもしれないと思っています」と語った。
一方、金澤氏は、「今回の計画は元々のチャペルで使用されていた構造材を再利用し、新しく生まれ変わらせるという、近年では特殊な建築工事」と説明した。「日本において大量生産・大量消費・大量廃棄の社会の中で、過去のものになってきてはおりますが、古い木材を使うことは決して強度が弱くなるというわけではありません。良い木材は切られた後も強度が増し続けます。加重や曲げといったさまざまな強度の面では全く問題はありません。むしろ自然の力でしっかり乾燥された古材は、強いばかりか見た目も美しいものが多く、新しい木にはない味わいがあります。また歴史的な価値も生まれます」と語った。
同学院にはこれまで祈りの場所があったものの、コイノニアハウスにあったチャペルは東日本大震災による震度6弱の地震で、ガラス戸が全て外れ、部屋も傾き、全く使用不能になっていたという。
古民家を再生したこのチャペルは、面積が88.17メートル、高さは約5メートルの木造建築で、110年前の古民家の柱などの枠組みや土壁が使われている他、畳の部屋もある。床木材は輸入材ではなく同学院の敷地内の木が用いられたという。藁葺(わらぶ)き屋根や囲炉裏(いろり)はないが、落ち着いたたたずまいがある。
献堂式ではチャペル内に椅子が並べられたが、式後には椅子が運び出され、床に座る本来の設定に戻された。この設定では説教壇から会衆の席を見下ろすのではなく、逆に見上げるように段差が作られており、アジア学院が大切にする「servant leadership」(指導者が他者に仕えるしもべ)を意味するという。最下段は、掘りごたつのように足を入れて囲んで座れるようになっている。
伝統的な建築様式は、「日本に来たのに、日本の伝統的なものがない」という、海外からの学生の声を反映したもの。こうした声はチャペル建築委員会でも上がっていたという。
荒川朋子副校長によると、このチャペルは毎朝の集会での祈りに使われるほか、日曜の午後には韓国語の礼拝も行われる。また、ミンゴスによるコンサートも開かれるという。一方、同学院に集まる学生の中には心の悩みを抱える人たちも少なくなく、畳の部屋はカウンセリングルームとして使われるという。
日本の古民家を再生して建てられた一方で、屋根にはソーラーパネルがあり、太陽熱を利用した床暖房システムが整備されている。音響面では8チャンネルのミキサーの他、近年一部の教会で使われている簡易PAシステムも。伴奏用の楽器にはアップライトピアノがあり、スクリーンとプロジェクターもある。
教会では日本の古民家を改築したものに旧日本ハリストス手賀教会(手賀使徒伊望正教会、千葉県柏市)の事例があるが、オイコスチャペルのように学校法人のチャペルで古民家を再生したものは全国でも珍しい。
献堂式の出席者には、オイコスチャペル献堂式の記念に同学院で製造されたビン入り二年仕込醤油(360ml)が配られた。
今後、オイコスチャペルで一般公開の催し物が行なわれる場合は、同学院のホームページなどで告知される。