日本キリスト教婦人矯風会(矯風会)主催の映画『約束 名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の生涯』上映会が22日、午後1時半からと同6時半からの2回、同会の矯風会館(東京都新宿区)で行われた。
午後6時半からの上映会では、矯風会の川野安子副理事長が開会のあいさつをし、同会が創立以来、弱い立場に置かれた人たちや人権のための活動をしてきたという歴史的な背景を述べた。その上で、「この映画を皆さんとご一緒に鑑賞しながら、こうしたことがまかり通っていいのか、というような多くのことがある中の一つとして憶えていただきたいと思う」と語った。
川野副理事長によると、矯風会は数年前に死刑廃止に取り組むことを決め、これまでにも死刑に関する映画を上映した経緯があるという。今回の上映会には多くの牧師たちの呼びかけもあり、教会関係者も多く参加したという。
この120分の映画では、主人公の奥西勝を俳優の仲代達矢が、若かりし頃の奥西を山本太郎が、そして奥西の母タツノを樹木希林が演じ、寺島しのぶがナレーションを務めている。
昨年2月16日から全国で公開され、すでに上映終了のところも多い。また、東海テレビ取材班著『名張毒ぶどう酒事件 死刑囚の半世紀』(岩波書店、2013年2月)が出版されてから、すでに1年以上が過ぎている。しかし、この事件自体は現在もなお続いており、有罪とされた死刑囚は50年以上も獄中に入れられたままである。
同書によると、1961年、三重県名張市の村でぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡。その後、同年に逮捕された奥西勝は「自白を強要された」と無罪を主張する。1964年の津地裁判決では「証拠不十分により無罪」とされた。
しかしその後、彼の人生は裁判所の決定に翻弄されてきた。1969年の名古屋高裁判決では「原判決を破棄し、被告人を死刑とする」と、戦後唯一の無罪からの逆転死刑判決を受けた。そして1972年、上告棄却により最高裁で死刑が確定した。
その後、7回にわたって再審請求が行われ、2005年に再審開始が決定するも、名古屋高裁は翌年に異議審開始決定を取り消した。ところが、2010年に最高裁差し戻しが決定。しかし、2012年に名古屋高裁差し戻し審棄却。弁護団は同年5月30日、最高裁に特別抗告を申し入れた。だが、支援団体などによると、最高裁第一小法廷は同年10月16日、弁護団の特別抗告に対して、再審を認めない決定をしたため、弁護団は第8次再審請求を名古屋高裁に申し立てたという。
奥西勝死刑囚は1926年1月生まれで、現在は88歳という高齢だ。しかも病気のため、現在は東京都にある八王子医療刑務所にいるという。彼が1961年に逮捕され、無実を叫び続けて今年で53年。映画のチラシは「独房の半世紀―あなたは、その時間を想像することができますか?」と問いかけている。
同書は、映画の劇場公開に合わせて企画されたもので、「映画という映像表現で伝えきれないものを、本書によって埋めることができたら、と願っている」としている。
一方、映画は「ドキュメンタリーにドラマを融合させて実録映画にできないか」という提案から作られたという。映画では、書籍だけでは伝えきれない登場人物の感情や現実性を、映像や音声によって表現している。その意味では、同書とこの映画は互いに補い合っているところがあるとも言えよう。
同書の著者である東海テレビの取材班は、「本書は、事件の全容と核心であると同時に、司法の不当性の記録である」とし、その目的は「初動を誤った捜査が引き起こす冤罪の悲劇であり、自白偏重と自らの権威を重んじるあまり正体を失った裁判所を描き出すことが重要だと取り組んできた」という。これは、映画でも貫かれているように見える。
さらに、書籍と映画の両者に通底する現実性は、東海テレビの取材班が、事件の証拠と検察当局、そして裁判所に対してこうした厳しい視点をもって行った長期取材に裏打ちされたものであり、現場に立ったジャーナリズムの成果である。
この事件では「犯罪」とされたことの証拠の真実性が争点であり、この映画を観る人はそれを取り巻く登場人物を前にして、自分がどこにいるのか、自らの立場を問われることだろう。
そしてその「犯罪」がもし冤罪であるとするならば、いわれのない罪で死刑にされることや、真実や正義を求めること、囚われた人が自由にされること、そして矯風会のように、弱い立場に置かれた人、人権のために活動することが、クリスチャンにとっては自らの信仰との関連でどのような意味を持つのかを考え、行動することにもつながるだろう。
川野副理事長はこの映画の上映終了後、参加者に対し、上映会で配布されたハガキに気持ちや励ましの言葉を書き、奥西死刑囚に届けようと呼びかけていた。ハガキは、国際人権NGOのアムネスティ・インターナショナル日本を通して、奥西死刑囚に届けられるという。
映画の公式サイトによると、今後も複数の地域で上映会が企画されている。関心のある人は、映画と併せて書籍も読み、この映画をご覧になってみてはいかがだろうか。