15日に放送がスタートしたドラマ『明日、ママがいない』(日本テレビ系)について、赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」を設置している慈恵病院(熊本県熊本市)が、「児童養護施設の子ども達への差別を助長する」などとして16日、日本テレビに放送中止と謝罪を求めた。また、約600施設が加盟する全国児童養護施設協議会(東京都千代田区)も20日、抗議文を送付した。しかし、日本テレビ側は、放送中止や謝罪に応じない考えを同病院側に伝えるなど、今後もドラマは継続する方針だ。
慈恵病院は16日、記者会見を開き、蓮田健・産婦人科部長は「施設の現状を知る視聴者は少ない。フィクションと言っても誤解されかねない」(朝日新聞)と、同ドラマの施設職員についての描写の問題点を指摘。ドラマ中の少女が「母親の顔も知らないくせに」などと言われる場面について、「同じ立場の子どもが聞いたらどれだけ傷つくか」(同)などと述べた。
15日の初回放送の舞台は児童養護施設で、赤ちゃんポストに預けられたという設定の子役が「ポスト」というあだ名で呼ばれたり、施設の職員が、里親に気に入られるため子役に泣くよう強要する場面などがある。また、施設長が「お前たちはペットショップの犬と同じだ」という言葉を子ども達に浴びせたり、子ども達を平手打ちにする場面もある。
全国児童養護施設協議会の武藤素明副会長は毎日新聞の取材に対して、「内容が児童養護施設の現状とかけ離れている。子供を平手打ちする行為は施設内虐待に当たる。里親制度も実態と違う。番組の体罰的な場面から国民や世論の理解も得づらくなる。いくらフィクションでも、子供や親、職員の人権を侵害している」と、厳しいコメントをしている。
これに対して、日本テレビは「ドラマでは子供たちの心根の純粋さや強さ、たくましさを表し、子供たちの視点から『愛情とは何か』ということを描く趣旨のもと、子供たちを愛する方々の思いも真摯(しんし)に描いていきたい」(朝日新聞)、「今後とも、施設の子どもたちの尊厳を冒さぬよう配慮し、ご覧いただいた方が偏見を抱くことがないよう留意していきます」(共同通信)とコメント。ドラマの放送は中止しない意向だ。
一方、慈恵病院は近く、放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議を申し入れることを検討している。
親が育てられない子を匿名で受け入れる赤ちゃんポスト「こうのとりのゆりかご」は、厚生労働省の許可を得て2007年5月に設置。運営の慈恵病院は、カトリックの「マリアの宣教者フランシスコ修道会」によって1898年(明治31年)に創設された。現在は近代的医療の展開をめざして修道会から経営を移管し、「キリストの愛と献身の精神の基に、病に苦しむ方々へ高度で暖かい医療と看護を尽くし、地域への貢献と人々の幸福に役立つこと」を理念に運営されている。