熊本市の慈恵病院(蓮田太二理事長)が運営する、親が育てられない子どもを匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(通称:赤ちゃんポスト)に関する有識者らによる検証会議は26日、最終報告を発表した。開設後2年半の間に預けられた乳幼児は51人。当初想定されていた数を大きく上回るもので、同制度に一定の評価を与えた。しかし、親としての責任を逃れようとして同制度を利用したと受け取れる事例もあり、「匿名性を排除する努力」を求めた。また、預け入れが全国からあることなどから、国主導の取り組みの必要性を訴えた。
今回の報告では、初めて子どもを預けた理由が公開された。理由には、生活困窮(7人)、戸籍に入れたくない(8人)、不倫(5人)、未婚(3人)などで、預けられた子どもの中には障害がある子も複数いた。同制度がなければもっと悲惨になっていた事例もある一方、妊娠や出産をなかったことにしたいという倫理観を疑うような事例もあったという。
51人の内39人については親の居住地が判明しており、内訳は、九州・沖縄13人、関東11人、中部4人、近畿4人、中国4人、四国1人、北海道・東北0人であった。年代別では、生後1ヶ月未満43人、生後1カ月〜1年未満6人、生後1年以上〜小学校入学前2人であった。同会議では、赤ちゃんポストを設置している熊本県1県だけで対応できる問題ではなく、「国の関与が望まれる」と報告している。
同院に赤ちゃんポスト設置を許可した幸山政史・熊本市長は、今回が第三者機関による初めての評価ということもあり、「多くの命が救われたとの総括で、正直ほっとしている」(時事通信)とコメント。一方で「利用されない方が望ましいという考えに変わりはない」(同)と語った。同院は、与えられた課題を十分検討し、対応していきたいとしている。報告を受けた蒲島郁夫・熊本県知事は近く報告書を厚生労働省に提出し、国に提言する方針だ。
新生児の産み捨てや若年層の中絶防止などを目的に、ドイツではすでに同様の取り組みを00年から導入。ドイツ国内では70カ所以上で預け入れ所が設置、運用されている。日本国内では、同制度を違法とは言い切れないとして、厚生労働省が同市に設置の認可を出して始まった。しかし、保護責任者遺棄罪や児童福祉法、児童虐待防止法などで法に接触する部分があるなどと賛否が分かれている部分がある。
07年に日本国内で初めて赤ちゃんポストを設置した慈恵病院は、カトリックの「マリアの宣教者フランシスコ修道会」によって1898年(明治31年)に創設された。現在は近代的医療の展開をめざして修道会から経営を移管し、「キリストの愛と献身の精神の基に、病に苦しむ方々へ高度で暖かい医療と看護を尽くし、地域への貢献と人々の幸福に役立つこと」を理念に運営されている。