【カブール・アフガニスタン(AP通信)】イスラム教トップ聖職者らがキリスト教徒に改宗したアフガニスタンの男性に対し死刑を要求しているという。そして、もしアフガニスタン政府が欧米政府の圧力に押されて、死刑執行を行わず彼を釈放すれば、イスラム聖職者らは民衆を誘発して彼を抹殺すると警告している。
このアフガニスタン聖職者らの異常な動きに対し、米国務長官コンドリーザ・ライス氏は23日、アフガニスタンハミッド・カルザイ大統領に電話をし、キリスト教に改宗したアブドル・ラーマン氏に対して最善の決断を成すよう要請した。ラーマン氏は41歳で元医療援助活動家であり、キリスト教徒に改宗したということだけでアフガニスタンのイスラム法下において死刑判決に直面している。
彼の裁判について、この保守派イスラム大国と欧米諸国の間で激しい価値観の対立が生じている。
イスラム聖職者のアブドゥル・ラオルフ氏は、「イスラム教を否定することは神を侮辱すること。我々は神を侮辱する行為を許さない。この男は死ななければならない」と述べた。ラオルフ氏はイスラム穏健派で知られ、2001年にタリバン政権が失脚するまでタリバン政権に反対して3度投獄された経験がある。
この裁判は先週から始められ、世界各国から非難を浴びている。米大統領ジョージ・W・ブッシュ氏は、今回の裁判について非常に懸念の意を示しており、アフガニスタン政府に世界の自由の原則を尊重するよう要求している。
ライス国務長官付広報官シーン・マコーマック氏によると、ライス国務長官はカルザイ大統領に、「アフガニスタン国民の宗教の自由は自分たちの国で守られていると知ることが重要である」と述べたという。
ライス国務長官直々のアフガニスタン指導者に対する訴えはアフガニスタンでは異例の出来事である。しかし、アフガニスタンの主権保持のためにライス氏は、明白にはこの裁判が中止されるべきであり、被告は解放されるべきだとは述べなかったという。このような決断は、すべてアフガニスタン政府の意思によって行われるべきものである。
ドイツ首相アンジェラ・メルケル氏は電話を通してカルザイ大統領から、ラーマン氏は死刑にはしないことを保証する声明を受けたと記者に伝えたという。
外交官らによると、アフガニスタン政府はこの裁判を却下する方法を模索しているという。水曜日に政府当局は、ラーマン氏は精神的な病にかかっており、心理検査を受けて彼が裁判に耐えうる精神状態であるかどうかを診断する必要があると述べたという。
しかしAP通信による3名のスンニ派説教者と1名のシーア派信徒に対するインタビューによると、カブールでもっとも有名な4つのモスクでは、ラーマン氏が正常ではないとは信じていないという。
Haji Yacob Mosqueの主任聖職者ハミダラ師は、「ラーマン氏は正常です。彼は報道記者の面前でキリスト教徒になったことを宣言しました。政府は国際社会を恐れています。しかし彼が釈放されれば、民衆が彼を殺すでしょう」と述べたという。
イスラム教組織、アフガンウラマー協議会会員のラオルフ師は、「政府はゲームを行っているが、民衆は騙されないだろう」とHerati Mosqueの中庭で述べた。そして、「彼の首を刎ねよ!そうでなければ我々は民を召集して彼の姿かたちも残らないほどに木端微塵に打ち砕くだろう」と叫んだという。
ラオルフ師によると、ラーマン氏が生き残る唯一つの方法は国外追放になることであるという。
しかし、シーア派モスクの中でも最も大きなモスクの一つ、Hossainia Mosqueのトップ聖職者のマーホセイン・ナスリ師によると、ラーマン氏は国外退去が許可されてはならないという。
ナスリ師は、「もし彼が西欧諸国に在住することが許されれば、他の人々も彼につきしたがってキリスト教徒になり、国外に移住するようになるだろう。我々は例を示さねばならない。彼は絞首刑にされなければならない」と述べたという。
イスラム教聖職者らは、米国政府やその他の外国政府がラーマン氏を解放するように要求することに憤慨しているという。
ナスリ師は、「我々の国家は小国であり、国外からの支援は歓迎する。しかし、どうかこの問題に干渉しないで欲しい。我々はイスラム教徒で、これらの法律は我々の信仰である。このことは世界が我々を支援してくれることなど比べ物にならないほど、我々にとって重要なのである」と主張したという。
アフガニスタン憲法はシャリア法典に基づいている。この憲法は、イスラム教徒であることを拒絶しようとするイスラム教徒はだれであっても死刑にされなければならないと要求していると、多くのイスラム教徒が解釈している。
ハミダラ師は政府がラーマン氏を釈放すれば民衆からの支持を失うだろうと警告した。そして、1980年代にソビエト占領軍に対して暴動が生じた時と同様に民衆による暴動が起こるだろうと述べている。
人権団体国際アムネスティはラーマン氏がただ単に彼の信仰のためだけに抑留されているのだとすれば、彼は「良心の囚人」であり、この裁判は却下されるべきであると述べているという。
ラーマン氏は、パキスタンでアフガニスタン難民を支援するキリスト教国際団体の中で医療支援活動家として働いている最中にキリスト教徒に改宗。その後ドイツに9年間住み、2002年にアフガニスタンカブールに帰国したという。
ラーマン氏の裁判がいつまで続くのかは定かではない。当局はAP通信がラーマン氏と接触を取るのを禁じており、さらにラーマン氏には弁護士がついていないと考えられている。