著者のジェームズ・R・マグロー氏は、9・11のグラウンド・ゼロ(ワールド・トレーディング・センター跡地)からわずか2.5ブロック離れた所に位置するオールド・ジョン・ストリート合同メソジスト教会の牧師。9・11を経験し、全米最古のメソジスト教会である教会を避難所として開放し救援にあたった。本書は、マグロー氏が9・11の次の日曜日から礼拝の中で捧げた祈りの中から10編を厳選した祈り集。2001年9月14日の日曜日から始まり、11月18日のサンクス・ギビング・デーで終わっている。テロの惨劇を経験した牧師と教会の人々が何を見、感じたかが祈りとなっている。
祈りの内容は、間近に見たテロとその惨劇に対するショックの中で、神のみこころを問いつつ、心と体に傷を負った人々の癒しを求めている。すぐれているのは、その後全米を覆った報復を叫ぶ声とは一線を画し、あくまで世界と神に対して開かれている点。日本語版の序文では、広島・長崎、日系人の強制収容所のことが言及され、著者の視点がただ被害者の慰めにあるのではないことを示している。
現在のイラク戦争は9・11の延長にある。したがって、この3年間、米国と世界は9・11の後遺症に悩まされている。そして、それはまだしばらく続くと思われる。軍事力による報復が続く世界の中で、赦しによる平和への扉を開く祈りとして、3年経った今でも聞くべき価値がある祈り。(日本キリスト教団出版局 伊東正道)
日本基督教団の山北宣久総会議長(東京都渋谷区・聖ヶ丘教会牧師)は今年3月に米国の諸教会を訪問した際、原著「グラウンド・ゼロからの祈り」と出会い、日本語訳の出版許可をマグロー氏に願い出た。マグロー氏はこれを快く承諾し、山北牧師の帰国と同時に翻訳プロジェクトが開始された。翻訳作業は、聖ヶ丘教会会員の有志8人が中心となって行った。作業開始当初、発行は今年12月頃になるとされていたが、「9月11日までに完成させ、全国の教会で平和の祈りに用いてもらいたい」との山北牧師の要望を受けて、急ピッチで作業が進められ、8月中旬に完成、発行に至った。
グランド・ゼロからの祈り
A5判並製、55頁
本体価格998円
ISBN4-8184-0543-4
著 ジェームズ・R・マグロー
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