「神の霊の宿っているこのような人を、ほかに見つけることができようか」(創世記41・38)
パロ王は、まずヨセフの夢の解き明かしがドンピシャリ当たっていたので驚いた。「今すぐ、エジプト全土に大豊作が訪れます。それから、そのあと、七年間のききんが起こり、エジプトの地の豊作はみな忘れられます。ききんが地を荒れ果てさせます」(創世記41:29~30)この解き明かしが神の霊によって与えられたことを、異教徒のパロですら察知したのだ。
また、豊作の7年間に食糧を集めさせて保管し、飢饉の7年間に備える政策を勧めた時、その知恵は神の霊から来たことを認めたのだ。彼はヨセフが呪法師や知恵ある者以上であることを直感して「神の霊の宿っている人」と呼び、すぐさまエジプトの宰相に任命したのだ。
ヨセフの聖霊体験
1. 夢を見た
聖霊に満たされると「青年は幻を見、老人は夢を見る」(使徒2:17)のだが、ヨセフが17歳の時に見た夢は預言的であり、ヨセフが輝かしいスターになることであり、また両親や兄たちがヨセフに頭を垂れてお辞儀をするというものであった。ヨセフは二つの夢を両親や兄に告げたが、それは彼がこれらの夢の実現を信じたからなのだ。
2. 夢を解き明かした
聖霊の賜物に「霊を見分ける力」と「異言の解き明かす力」(1コリント12:10)があるが、夢の解き明かしはこの二つのコンビネーションであろう。ヨセフは自分の夢を解き明かしただけではなく、献酌官長と調理官長の夢、またパロの夢を解き明かした。まさしく、聖霊による夢の解き明かしである。
3. 夢に導かれた人生
彼の人生は17歳の時に見た夢に導かれるようにして、13年間のどん底生活を通りながらも夢による希望に満ち溢れ、ついには最強国エジプトの宰相になったのだ。
聖霊は今でも青年に未来の幻を与える。私が15歳で教会に行って、救われる前に与えられたのが預言的な幻であり、その幻は実現することになった。今、私は15歳の幻の中に現実に生きているのだ。
ヨセフの夢は、彼に患難の中でも喜びと忍耐力を与え、練られた品性と希望をもたらした。夢があったから、またその実現を信じたから、彼は13年間の奴隷と牢獄生活を乗り越えることができたのだ。
4. 知恵を与えた
ヨセフの知恵は神がかっていることをパロは認めた。何故なら、彼には聖霊による超自然的な知恵がその都度与えられたからだ。「ある人には御霊によって知恵のことばが与えられる」(1コリント12:8)のである。
5. 管理能力を与えた
ヨセフは若くし際立ったマネッジメント能力を発揮した。ポティファルの家でも、牢獄でも、エジプトの宰相としてでもある。聖霊の賜物の一つは「治める」(1コリント12:28)、つまり管理する賜物である。「主人が彼にその家を管理させたときから、主はヨセフのゆえに、このエジプト人の家を、祝福された。それで主の祝福が、家や野にある、全財産の上にあった」(創世記39:5)今日、霊の賜物を持つ管理者を必要としています。
6. ゆるしを与えた
ヨセフは揃って自分を袋叩きにしてエジプトに奴隷として銀20枚で売り飛ばした10人の兄たちをゆるした。自分を陥れた主人ポティファルの妻をゆるし、調べもせずに自分を牢に入れたポティファルをゆるした。
復活のイエスは弟子たちに息を吹きかけて言われた。「聖霊を受けなさい。あなたがたがだれかの罪を赦すなら、その人の罪は赦され、あなたがたがだれかの罪をそのまま残すなら、それはそのまま残ります」(ヨハネ20:22~23)つまり、ゆるしは聖霊の働きによって行われるのである。ヨセフがこれほど豊かにゆるせたのは、彼の性格によるのではなく聖霊の助けによったのだ。
ヨセフ物語を詳しく読むなら、ヨセフが復讐するかゆるすかの狭間で数年間迷い苦しんだことがわかるだろう。ヨセフは決して簡単に兄たちをゆるしたわけではなく、シメオンを縛り上げて留置して家に帰さなかったり、兄たちを脅かしたり、弟ベニヤミンの食糧袋に細工をして嫌疑をかけ、兄たちを懲らしめたのだ。しかし、最後には聖霊がヨセフとその復讐心に勝利をしたのだ。この時にサタンは敗北したのだが、もしヨセフが復讐したなら創世記は恐ろしい結末になったはずである。
どろどろした人間関係をふんだんに盛り込んだ創世記はゆるしで終止符を打っている。愛は憎しみを乗り越え、和解は裏切りに勝利し、憐れみは裁きを覆い、ゆるしは恨みを打ち砕いたのだ。ヨセフは復讐を恐れて自分の前にひれ伏す兄たちに言った。「『あなたがたは、私に悪を計りましたが、神はそれを、良いことのための計らいとなさいました。それはきょうのようにして、多くの人々を生かしておくためでした。ですから、もう恐れることはありません。私はあなたがたや、あなたがたの子どもたちを養いましょう。』こうして彼は彼らを慰め、優しく語りかけた」(創世記50:20~21)
聖霊の働きのすごさ、聖霊体験のすばらしさにただただ驚く他ありません。
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平野耕一(ひらの・こういち):1944年、東京に生まれる。東京聖書学院、デューク大学院卒業。17年間アメリカの教会で牧師を務めた後、1989年帰国。現在、東京ホライズンチャペル牧師。著書『ヤベツの祈り』他多数。