世界教会協議会(WCC)が呼び掛ける「すべての暴力を克服する10年(2001〜2010年)」(DOV)を記念して、2011年5月に開かれる国際エキュメニカル平和会議(IEPC)を前に、日本キリスト教協議会(NCC)は、DOVの意味をもう一度振り返り、取り組みを継続するための手引書を発行し、個人や諸教会にDOVへの参加を呼び掛けている。
DOVは1998年、ジンバブエのハラレで行われたWCCの第8回総会で発案されたもの。紛争、貧困、差別、自然破壊など、全世界で絶えない様々な暴力を克復するために、世界の諸教会に具体的な行動を促してきた。NCCでも、女性委員会を中心にDOVへの参加を呼び掛けるフォーラムを開催するなど、積極的な取り組みを続けてきた。
DOVコーディネーターのハンスルリッチ・ガーバー氏は手引書の前書きで、来年の国際エキュメニカル平和会議について「エキュメニカル運動の中の平和構築の未来を指し示すものになる」とし、「(キリスト者が)希望をもってこれに参与すべき十分な理由が、それも、歴史上初めて生じている理由があります」と述べている。
その理由についてガーバー氏は、▽暴力がもはや、気づかれず、異議申し立てを受けずに済まされるものではないこと▽暴力の防止が世界中で主流となっていること▽平和構築と紛争解決が世界中で新たな学問分野となっていること▽和解が教会や共同体にとって喫緊の課題となっていること▽核兵器問題、気候変動問題などの全世界的な脅威が差し迫った現実となっていること▽公正な平和の概念を語るには、勇気と真実を語ること、そしてゆるやかな共同行動が不可欠なこと、を挙げた。
ガーバー氏は、「(上記の項目が)すべてを網羅しているわけではありません」としたうえで、「しかし、これらが指し示しているのは、『時の始まり以来隠され続け』、そしていま、イエス・キリストにあらわされた神の、創造と癒やしの御力により、我々の目の前にいまや明らかにされようとしている事柄」と述べ、神による平和と正義の約束が実現へ向かっていることを強調した。さらに、戦争と暴力がいまだに現実としてあり、それらが正当化されている時代にあって、「(来年の会議で)『公正な平和』について語ることの意味を宣言し、その実現を追求し続けるのです」と会議の重要性を強調した。
手引書によると、DOVは最終目標として、▽広範囲にわたる多様な暴力、家庭内、地域社会、国際的場面での直接的な、また構造的な暴力の全体像を示すこと、地元や地域に特有の暴力を解明してその暴力克服の手法を学ぶこと▽教会の精神的・論理的・直接的暴力を克服すること、暴力に対するいかなる神学的正当化も排除すること、そして和解と積極的非暴力行動のための新しい霊性の確立のために取り組むこと▽優位性とか競争という観点ではなく、協力や共同体という観点からの、新しい安全保障の理解を作りだすこと▽他宗教から平和創造のための霊性や資質を学び、他の信仰共同体と平和追求のために働き、多元的社会において教会は、宗教的・民族的アイデンティティを誤用していないか、振り返りを呼び掛けること▽世界の軍事増強、とくに小銃器や小型兵器の拡散について異議申し立てをすること、を挙げている。
手引書は、共同体(コミュニティ)の中の平和、地球と共にある平和、市場の平和、多用な民族間の平和など、様々な視点から暴力について考察し、キリスト者に平和構築への具体的な行動を促す内容となっている。B5版20ページ。NCCのホームページからPDFファイルを直接ダウンロードできる。
国際エキュメニカル平和会議は2011年5月17日から25日まで、ジャマイカのキングストンで開かれる。会議では、「公正な平和に関する国際エキュメニカル宣言」が採択される予定だ。