1.父さん、生きててよかったね!
キリスト教の洗礼を受けて早いもので、もうすぐ2年になります。事業に失敗し、練炭自殺を図ってから3年になろうとしています。
23年前に個人事業をスタートして以来、私はずっと経営者でした。サラリーマン時代は東芝に在籍していた数年間にすぎません。個人事業の当初の相棒は一攫千金型で、私はコツコツ型でしたので、数カ月で別れることになりました。その後別の協力者を得て、一緒にパチンコ店向けの設備関係の下請け工事をやりました。バブル時代が終わったころでしたが、パチンコ業界だけは不景気知らずで、飛ぶ鳥を落とす勢いでした。パチンコ店の店長が、「パチンコ屋は儲かって儲かって仕方ないんです。私も店長を辞めて経営者になりたい!」と言っていました。
仕事はどんどん増え、工事のために二人で全国を回っていました。人を増やそうと思い、知り合いの何人かに声をかけました。不景気に入り始めた時期でしたので、二つ返事で人が増え、会社を設立しました。
その頃から出張続きで、家に帰るのは半年に一度のペースでした。まだ結婚して間もないのに、「亭主元気で留守がいい」になっていました。全国展開になるとなおさら留守がちになりましたが、お金はちゃんと入れていましたので、家内は文句も言わずに子育てに専念してくれました。私は二人の息子たち(現在22歳、20歳)と一緒に遊んでやることもなく、親父の存在感はほとんどありませんでした。私だけ完全に家族から浮いていました。
そのうち北朝鮮問題や賭博性の問題で行政がだんだんパチンコ店を締め付けてくるようになりました。パチンコ業界は大きな転換期を迎え、ギャンブル性の高い人気の遊技台は使えなくなり、お客さんが一気に減りました。パチンコ店の転売が始まり、大型パチンコチェーン店の倒産がありました。銀行の貸し渋り、ファンドの撤退により、パチンコ店は自己資金で営業せざるを得なくなりました。遊技台の購入費の支払いが精いっぱいで、設備投資するパチンコ企業は一気に減りました。
「パチンコ業界は必ず復活する!」そう信じていた私は強気で頑張ってきましたが、借り入れがどんどん増えて、会社を破産に追い込んでしまいました。
私の経営能力がなかったのが一番の原因です。当時は海外を含めて四つの会社を経営していて、従業員および従業関係者は300人を超えました。そのため一つひとつの仕事の取り扱いが散漫になり、何事も見切り発車、どんぶり勘定でやってきました。いつも大金を懐に入れ、仕事をしながら遊びまわっていました。それでも家内は私の夢を信じてくれて、「父さんなら何とか危機を乗り越えてくれる」と期待していました。
巨額の負債を抱えてグループ会社が完全に行き詰まった時、家内を心配させたくない一心で、保険金目当ての自殺を考えました。高額の事業者保険をかけていましたので、自分が死ねばかなりの保険金が入り社員も助かるし家族も救われると思い、静岡の山の中で練炭自殺を図りました。意識不明の私は発見者の通報により警察のヘリコプターで病院に運ばれ、三日後に奇跡的に意識が回復したのです。「まるで死後三日後に復活したイエスさまにそっくりだ!」とよく言われます。
幸か不幸か自殺は未遂に終わりましたが、「父さん、生きててよかったね!」と家内が言ってくれました。こんなハチャメチャな私が生きていたことを喜んでくれたのです。この事件の顛末については、「父さん、生きててよかったね!」というネットの証しに詳しく書きましたので、検索してお読みください。今では誰もが吹き出すような笑い話になっていますが、当時は真剣そのものでした。なにしろ大量の睡眠薬を飲んで車内に積んだ練炭に火をつけて、血走った目で死に場所を探しながら車を走らせていたのですから。
自殺未遂の後、会社の債務を整理して、自分で志願してキリスト教の洗礼を受け、「仮のクリスチャン」になりました。「仮のクリスチャン」、またの名、自称「エセクリスチャン」とは、「聖書もろくに知らずに、イエスさまがどういうお方かもわからずに、クリスチャンの仲間入りをしたくて、とりあえず洗礼だけ受けた者」という意味です。
洗礼を受け、よい仲間が増えて、精神的にはすごく恵まれました。「あなたはきっと偉大な伝道者になる」と言われ、新約聖書の大伝道者「パウロ」というクリスチャンネームをいただきました。それに気をよくして、一時は仕事そっちのけで福音の伝道をしました。駅前でも、空港でも、ホテルでも、キリスト教国の韓国でも、仕事の仲間たちにも、辺り構わず福音の文書を配りまくりました。福音の意味もわからないままです。不思議なことに、そんな私の伝道によって洗礼を受ける人たちが大勢出てきました。私の証しを読めばわかりますように、実体は、「パウロ」ではなく、「ピエロ」なのですが。
しかし、現実の生活はというと、一向に仕事の目処が立たなく、今度は個人の借金が増えて首が回らくなりました。家内の強い要望で、子どもたちだけは大学を卒業させたい。「収入が間もなく入るから、間もなく入金するから」と言って家内を説得しながら時が過ぎて行きました。私の言葉を信じた家内は、手元に有るものはほとんど処分し、しかもカードローンにまで手を出すようになりました。今はセブン・イレブンでバイトをしていますが、気休めの報酬しかもらえません。
クリスチャンになった私は、「イエスさまを信じていれば、なんとかなる、きっとなんとかなる!」と自分と家内に言い聞かせてきました。ところがどういうわけか、借金は増える一方で収入の兆しがなかなか見えません。クリスチャンの仲間たちが無理してお金の支援をしてくれましたが、焼け石に水でした。
あまりにも苦しくて、洗礼を受けたのに私は何度となく、お金の問題や人の問題で、「あの時死んでいればよかったのに。もう一度死にたい、なんとかして死のう」と思いました。私が死んでも、生命保険はすでに解約済みで、一円も入って来ません。死ぬ意味もないし、人々に迷惑をかけるだけの負け犬になってしまいます。でも私の自殺願望は日ごとに大きくなっていきました。今から考えると、私の気の優しさ(弱さ)にサタン(悪魔)が付け込んで、自己嫌悪から自殺へと追い込んでいたのです。(続く)
アブラハムささき法律事務所所属・小濱敏雄(オバマ・パウロ・トシオ)