全国で急増する孤独死を防ぐためにいま何ができるのか。東京都新宿区にある淀橋教会で18日、孤独死問題を考えるシンポジウムが開かれ、新宿区の中山弘子区長をはじめ市民ら約200人が参加した。北九州市立大教授の楢原真二氏は、無縁社会が広がった原因のひとつに、地縁や血縁よりも生産性の向上を優先した日本の社会構造があると指摘。「本当の豊かさとは何なのか、考え直さなければならない」「日本は転換期に来ている」と警鐘を鳴らした。
淀橋教会の近くにある都営戸山団地で孤独死問題に取り組むNPO法人「人と人をつなぐ会」と「いのちのフォーラム」が主催。16棟2300戸の戸山団地は、65歳以上の住民が約半数を占める超高齢団地で、孤独死は多いときで年間10件を超える。
「戸山団地は特殊ではない」と楢原氏は語る。戸山団地のような高齢団地は各地で見られ、今後もさらに増え続けるという。06年に生活保護を拒否された男性の孤独死が発覚した北九州市の市営後楽町団地では、高齢化率が87%に達していたことが翌年の調査でわかっている。
楢原氏は、住民相互の持続的な人間関係を築く必要性を訴え、町内会や自治会など地縁組織の見直しを提案した。また、学生を高齢地域に招待するなど地域独自の方法による「人と人をつなぐための小さな活動」を呼び掛けた。
NPO法人「孤独死ゼロ研究会」の中沢卓実氏は、孤独死は誰にでも起こり得ると警告する。健全な夫婦であっても、子どもが独立し、どちらかに先立たれて一人暮らしになれば、たちまち「孤独死予備軍」となる。中沢氏は、孤独死の事例の共通点として、▽挨拶しない、▽仲間が乏しい、▽連絡をしない、▽地域の催しに参加しない、▽ごみをすてられない――などの特徴を挙げ、「孤独死を防ぐために、問題点を出し合っていこう」と呼び掛けた。
東日本国際大准教授の菅野道生氏は、孤独死対策の一例として東京都立川市若葉町の市立若葉小学校の取り組みを紹介した。学区内の団地に暮らす一人暮らしの高齢者を小学生が訪問し、朝のごみ出しを手伝っているという。若者が高齢者にどう関わっていくかも孤独死対策の重要なポイントだと指摘した。
「いのちのフォーラム」代表で僧侶の中下大樹氏は、「社会システムの問題として国の責任は大きい。(孤独死問題を)一つのムーブメントとして訴えていきたい」としつつ、一方で「私たち一人ひとりの心の持ち方についても考える必要がある」と述べた。また、「無縁社会の問題は、縁が機能していないこと。『よく来たね』と迎えてくれる教会やお寺のような擬似家族、安心して涙を流せる場所がたくさん出てくる必要がある」と新たなセーフティーネットの必要性を訴えた。