米同時多発テロ事件が起きた9月11日に合わせ、チェロ奏者で牧師でもある井上とも子さんのコンサート「9・11平和への祈り」(一般財団法人ユーオーディア主催)が11日、東京都世田谷区の日本ナザレン教団三軒茶屋教会で開かれた。井上さんは、楽器一つをもって世界に平和を訴えた20世紀のチェロの巨匠、パブロ・カザルスの晩年のエピソードを語り、「自分に与えられたチェロの音色をもって歌い続けていきたい」と平和への願いを伝えた。
井上さんは、今年6月に新アルバム「アリオーソ/チェロの祈り」を発表。この日は、市民ら約70人が集まる中、アルバム収録曲を含めた13曲を演奏した。
収録曲の「鳥の歌」は、祖国の平和と自由をアピールするためにパブロ・カザルス自らがチェロの独奏用に編曲を手がけた名曲。スペインのカタロニア地方で歌い継がれているクリスマスキャロルが原曲だ。森の大小さまざまな鳥たちが、「今日、すべての人のために、救い主が生まれたよ」と口々に喜びさえずる様子を歌っている。
晩年、国連総会の席に招かれたカザルスは、「カタロニアの鳥たちは、ピース、ピース(平和、平和)と歌います」と平和を訴え、世界に向けてこの曲を演奏した。当時の感動的なフィルムは今も残っている。
井上さんは、「カザルスは当時のスペインの独裁政治に抵抗したために、長い間祖国へ帰れない苦しみを味わいましたが、武器を持ってではなく、権力を振りかざしてでもなく、楽器一つもってこの世の荒波に立ち向かった、筋金入りのクリスチャンでした」と紹介。「鳥の歌」の演奏に平和への祈りを込めた。
「祈るとは、自分を深く見つめること」という井上さん。己の罪を深く思い、聖母マリアにとりなしを願う祈りの心を表したG・カッチーニの「アヴェ・マリア」を「鳥の歌」に続けて荘厳な音色で演奏した。
最後は、A・H・マロットの「主の祈り」。天上の神に心を向ける冒頭のピアニッシモから始まり、ピアノの間奏に導かれる切実な祈りを込めた中盤、そして力強い頌栄を表したエンディングをチェロの音色で見事に歌い上げると、会場からは大きな拍手がわき上がった。
井上さんは、「キリストの命がけの愛が皆様一人ひとりの心を癒やし、どんなときにも愛と平和に支えられ、平安の中に過ごされますように」と訪れた参加者を祝福した。