【CJC=東京】教皇ベネディクト16世は3月20日、アイルランドの聖職者による性的虐待の被害者に謝罪、問題の聖職者に、真実を話すよう呼びかけ、関係司教には当局に協力するよう指示する司牧書簡を3月20日発表した。
教皇は、被害者をはじめ、アイルランドの信者や聖職者などに、虐待や事実を隠してきたアイルランド教会の行為は犯罪であり罪だ、と聖職者による虐待行為を認め、「心から申し訳なく思う。遺憾の意と深い反省を率直に表したい」などと謝罪した。18ページに及ぶ謝罪文では、子供やか弱い若い世代が教会の聖職者によって虐待を受けていたことを知り、「本当に動揺した」と述べている。
教皇は書簡の中で「聖職者が犯した罪に衝撃と裏切りを感じた」と厳しく非難、虐待をしていた聖職者や隠蔽(いんぺい)工作に走った教会トップに対して「神の前と法廷で答えなければならない」とした。
今後、バチカン(ローマ教皇庁)も、アイルランドの教区、神学校、修道会の調査を行う計画。教皇が被害者と直接面会して癒やしを祈ることも明らかにしている。
ただ、教皇は教書の中で、アイルランド教会の抜本的な構造改革については言及せず、問題のもみ消しを図ったショーン・ブレイディー枢機卿の辞任も求めなかった。
今回の謝罪はアイルランドの被害者のみにあてたもの、とバチカンは明らかにしている。教皇は、他国での問題についても認識しているが、今回の書簡で全世界への謝罪とするには適切ではないと考えたという。
欧州における聖職者の児童に対する性的虐待は、アイルランドのほか、教皇の出身国であるドイツ、スイス、オーストリア、オランダでも明らかになっている。
ドイツでは、300人以上の被害が確認された。教皇が南部ミュンヘン教区の大司教だった80年にも教区内で少年が被害に遭ったほか、教皇の兄が指揮を務めたバイエルン・レーゲンスブルクの聖歌隊での疑惑も浮上した。性的虐待に関与した神父の教会施設受け入れを認めたとして教皇自身にも疑いの目が向けられている。
性的虐待は今年に入り米国、南米などでも報告され、世界のカトリック信者に衝撃を与えると同時に、バチカンへの批判が高まっている。
カトリック教会では聖職者の妻帯が認められていないことから、一部改革派の司教らは禁欲が性的虐待に結び付いていると主張、妻帯を認めるよう求めている。一方で小児性愛者が聖職者を志望するケースもある。
被害者の中には、教皇の謝罪が「被害者への言及が少なく、失望した」との声もあり、一部で肉体的・精神的被害について賠償を求める動きも出ている。
10億人以上の信者を有するカトリック教会の権威は低下、欧州では熱心な信者が減り、聖職志望者も減少している。神学生の数も2007年に欧州全体で約1万4000人と、10年で半減した。
「教皇は、アイルランド教会の失敗についてだけ語り、バチカンの役割を無視した。もしも教会がこの根本的な真実を認めないのであれば、受け入れられない」と、被害者グループの一つ『ワン・イン・フォー』のメーブ・ルイス氏は語った、と英紙サンデー・インデペンデントが報じている。