マレーシアで8日未明、首都クアラルンプール近郊のキリスト教会3カ所が焼き討ちに遭う事件が発生した。マレーシアでは先月31日、同国内でイスラム教徒以外の使用が禁止されている「アラー」という神の訳語をキリスト教徒も使用できるとした判決が出されたばかり。焼き討ちは判決に反発したイスラム教徒によるものと見られており、同日クアラルンプール市内ではイスラム教徒による数百人規模の抗議デモも発生した。これに対しナジブ首相は、警察当局に教会周辺の警備を強化するよう指示し、治安維持法の行使も辞さない姿勢を示した。
目撃者の話によると、バイクに乗ったグループが同日未明、窓ガラスを割り、火炎瓶を投げ入れるなどして3つのキリスト教会を襲撃。いずれの教会も1階部分が焼け、うち1つの教会は1階部分が全焼したという。負傷者は出ていない。
国営ベルナマ通信によると、ナジブ首相は、暴徒に対し裁判なしで無期限の拘束が可能な治安維持法の行使にも言及するなど、事件を強く非難。キリスト教徒とイスラム教徒間の高まる緊張に対し、「我々は互いに敬意を払うべきだ」と述べ、融和を呼び掛けた。
マレーシアでは、非イスラム教徒がイスラム教の唯一神「アラー」という言葉を使う場合、改宗を意図することがあるなどとして、イスラム教徒以外の「アラー」使用を禁止している。しかし、カトリック系の週刊紙『ヘラルド』が出版規定の改定後、発行許可の更新で「アラー」の使用について制限が付けられなかったとして、同紙内で「アラー」を使用した。これに対し国内治安省(内務省)は、「アラー」がイスラム関係者のみが使用できる表現だとして、使用禁止を命じた。
ヘラルド編集長のローレンス・アンドリュー神父は07年、「アラー」の使用許可を求めて裁判を起こした。政府側は「アラーという表現を使用する権利の問題は裁判になじまない」などと主張し裁判自体を回避しようとしたが、提訴が認められる判断が出され、今回の判決に至った。内務省は判決を不服として今月4日、控訴している。
マレーシアは人口の約6割がイスラム教徒で、イスラム教が国教。仏教徒が約2割、キリスト教徒が約1割で、イスラム教徒の多くはマレー系住民が占めており、仏教徒、キリスト教徒は中国系住民が多い。