日本聖公会は7月29日、同28日に裁判員制度施行後初めて行われた死刑執行に対して抗議する声明を発表した。死刑執行は1月29日以来約半年ぶりで今年2回目。07年12月の執行以降ほぼ2カ月に1回のペースで行われてきたが、今回は間隔が空いた。聖公会・正義と平和委員会の谷昌二委員長の名で発表された声明は、「 刑罰として命までも奪う権利は国家にも、誰にも与えられていない」とし、「死刑は、国家による犯罪」だと今回の執行に対して強く抗議した。
今回死刑が執行されたのは、山地悠紀夫死刑囚(25)=大阪拘置所、前上博死刑囚(40)=大阪拘置所、中国籍の陳徳通死刑囚(41)=東京拘置所(いずれも無職)の3人。山地死刑囚は大阪市浪速区のマンションで当時27歳、19歳だった姉妹を殺害し現金5千円を奪い、前上死刑囚はインターネットの自殺サイトを悪用し男女3人を窒息死させた。陳死刑囚は家賃未払いなどを理由に暴行されたことを恨み、男女3人を殺害、3人に重症を負わせるなどした。
麻生太郎首相、森英介法相に対して出された声明は、死刑が、残虐な刑罰を禁じた死刑制度は憲法第36条、及び「何人も拷問または残虐な、非人道的なもしくは屈辱的な取り扱いもしくは刑罰を受けることはない」と定めた世界人権宣言第5条の精神に反するものだと指摘。また、悔い改めと更生への道を奪うもだとし、冤罪の危険性も指摘した。
死刑については昨年、国連で死刑執行停止を求める総会決議が採択され、死刑制度を保持し執行を行なっている日本に対しては、国連人権理事会が執行停止や制度廃止を強く求めた。これに対して日本政府は、世論が悪質な犯罪については死刑もやむを得ないと考えているとし、また制度については各国が独自で判断するべきだという立場を示している。
04年の世論調査では、死刑について「場合によってはやむを得ない」とする人が81%に上り、「どんな場合でも死刑は廃止すべき」だとする人は6%にとどまっている。今回の施行についても森法相は「8割は率直にずいぶん高い」とし、裁判員制度をきっかけに死刑制度に関する議論が起こることは歓迎すべきだと話した。
一方、国連が死刑執行停止を決議したことについては、ローマ教皇ベネディクト16世も新年の挨拶で取り上げ、人間の命の聖なる性格を論議するきっかけとなるよう期待すると、歓迎する姿勢を示している。聖公会は今回の声明で、日本の死刑制度が国際社会の流れに逆らうものだとし、「人権に対する日本の後進性を現わすもの」だと批難した。
執行のペースがこれまでよりも遅れて約半年ぶりに行われたことについては、足利事件の再審開始が6月に決定しその対応に追われたことなどが考えられているが、死刑反対の立場からは今回の執行の時期について、衆院解散中の政治的空白期を狙ったものだと批難する声が出ている。