先月31日にイラクの14州で実施された地方選で、キリスト教徒が多い北部ニネベ(=ニーナワー)州ではスンニ派アラブ人系のアル・ハダバ党が勝利し、これまでのクルド人州政府から主導権を奪った。アル・ハダバ党はキリスト教を含む少数派の権利を尊重し、政治的発言も積極的に受け入れると公約しており、国内の過激派による迫害に苦しむ同国のキリスト教徒にとっては希望の兆しとなりそうだ。
アル・ハダバ党のアチル・アル・ヌジェフィ代表は、イラク国会で少数部族の権利を主張するオサマ・アル・ヌジェフィ氏の兄弟で、すでに同州の少数民族からは、新州政府の誕生により体制に大きな変化が起こることが期待されている。
同州は05年からクルド民主党とクルド人愛国連合によって政権が握られ、クルド人州政府のもとでキリスト教徒を含む少数勢力は過激派による圧迫に苦しめられてきた。
昨年10月には、アッシリア人キリスト教徒が少なくとも14人殺害され、キリスト教徒の家屋数棟が爆破される事件が発生。その影響で州都モスルからはキリスト教徒1万5000人近くが避難する事態となった。事件発生直後は、背後に国際テロ組織のアルカイダが関係していると見られていたが、捜査が進むにつれクルド人民兵組織のペシュメルガの関係が指摘されるなどした。
イラクのキリスト教徒は人口の約3%とされており、03年のイラク戦争以降避難を強いられ、現在は戦争前の約半数にまで減少したとされている。昨年2月には、カルデア典礼教会の大司教が誘拐され殺害される事件も発生しており、イラクに在住する多くのキリスト教徒が政治的、軍事的に弱い立場にあることなどから、一部では殺害や強制移住などによって根絶されてしまうことも危惧されている。