イエス・キリストが洗礼者ヨハネから洗礼を受けたとされる地で、1億ドル(約134億円)規模の開発計画が持ち上がっていることが明らかになった。
ロイター通信(英語)によると、同国のアブドラ国王と政府は、ヨルダン川東岸における「洗礼の巡礼村開発区」計画に耳を傾けているという。この開発計画は、ユネスコの世界文化遺産に登録されているイエス洗礼の地「アル・マグタス(ヨルダン川対岸のベタニア)」に隣接する形で「観光都市」を造るというもの。そこでは、土産物店やブティックホテル、植物園などの建設が計画されている。
アル・マグタスには現在、毎年約20万人が訪れているが、開発が行われれば、最大で5倍の巡礼者が訪れる可能性があるという。
開発費は、第一段階の開発で約1500万ドル(約20億円)が必要とされ、2029年の完成までには約1億ドル(約134億円)に上ると見積もられている。一方、同通信によると、最終的には3億ドル(約400億円)に膨れ上がる可能性もあるという。
開発を手掛ける建築家のカメル・マハディン氏(67)によると、この開発計画はショッピングモールの建設などとは異なり、歴史的、聖書的な重要性に敬意を払いつつ、この地の自然な景観をも取り入れたものになるという。マハディン氏は、同通信に次のように語っている。
「この場所の手付かずの自然を守り、2千年前に存在した神聖さと精神性がいかなる開発によっても踏みにじられないようにするために、建築デザインには素朴な石や小石を使うことを話しています。私たちはハイテクな景観について話しているのではありません」
ヨルダンの首都アンマンから西に約50キロに位置するアル・マグタスは、ヨハネによる福音書1章に描かれているように、洗礼者ヨハネがイエスを「神の小羊」と宣言した場所として知られている。
ヨルダン政府が設立したNPOの会長を務めるサミル・ムラド氏は、宗教専門のRNS通信(英語)に対し、この開発は、高級ホテルや5つ星レストランを建てるものではなく、「聖書の村」をテーマにしたものだと語った。
ムラド氏によると、この開発は、より霊的な体験を求めるキリスト教徒に「本物の感覚」を提供するアラブ風のテントやその他の質素な宿泊施設を特徴としている。
「これにより、この神聖な場所で霊的な時間を過ごしたい巡礼者に、テーマに沿った宿泊施設をリーズナブルな価格で提供することができます」
また、開発の一環として、現地の飲食店では「聖書に登場する荒野や植物」をモチーフにした有機食品やその他のサービスを提供する計画もあるという。
開発予定地には、9つの宗教組織が巡礼者を迎え入れるための建物を建設する機会が与えられている。RNS通信によると、世界のバプテスト派信者の約半数を代表する国際組織「世界バプテスト連盟」(BWA)も、その一つに選ばれているという。
開発の第一段階の作業は、2023年にも終わる見込みだ。
一方、中東の他の宗教的史跡と同様、アル・マグタスにも論争がないわけではない。
アル・マグタスは2015年にユネスコの世界文化遺産に登録されたが、学者たちの間には、イエスが洗礼を受けた正確な位置は、ヨルダン川の東岸(ヨルダン側)か西岸(イスラエル側)かはっきりしていないという主張があり、両国間で長期にわたり観光上の論争の的になってきた。
AP通信によると、ユネスコは、ほとんどのキリスト教会がヨルダン川東岸(ヨルダン側)を、マタイによる福音書3章やその他の聖書箇所に記述されているイエス洗礼の地と信じているとしている。実際に、カトリックやギリシャ正教、ルーテル派などの教派がアル・マグタスを支持しており、2000年以降、3人のローマ教皇が訪れている。