「ミニオンズ」「ペット」「怪盗グルー」シリーズなどで有名な米アニメスタジオ「イルミネーション」が、前作「SING/シング」を公開したのが2016年。日本では翌年3月に公開され、国内だけで51億円もの興行収入を上げた。私も当時、前作のレビューを書かせていただいた。その続編として日本で3月18日に公開されるのが、本作「SING/シング:ネクストステージ」である。
前作同様、40曲以上の楽曲が用いられ、約2時間の中で無音の場面など一瞬たりともないほど、(目はもちろんのこと)耳を刺激する作品となっている。プリンス&ザ・レヴォリューションの「Let’s Go Crazy」に始まり、エルトン・ジョン、ビリー・アイリッシュ、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、ジャスティン・ビーバーなど、世界的なシンガーたちのあまたのヒット曲が、これでもかというほど贅沢に(わずか数秒しか使われない場面も!もったいない!)使用されている。これらの楽曲の中で特筆すべきは何と言っても、U2の30年以上前の名曲「I Still Haven’t Found What I’m Looking For」と、新曲書き下ろしの「Your Song Saved My Life」である。
物語は至ってシンプルだ。タイトルからも分かるように、主人公たちが「ネクストステージ(次の舞台)」を目指して奮闘する姿をコミカルかつゴージャスに描き出している。もちろん最終的にはお約束のハッピーエンドとなるのだが、そこに至るまでのプロセスに組み込まれた人間模様が前作以上に多岐にわたる。本作は、このお約束の着地点に行き着くまでのプロセスを楽しむ映画である。
前作で自らの劇場を立て直したコアラの支配人バスター・ムーンは、エンターテインメントの聖地レッド・ショア・シティで公演することを夢見て、今日も地元の公演に励んでいる。しかし、公演を視察に来たクリスタル・タワー・シアターの視察員からは三流だと切り捨てられ、夢はついえてしまう。だが、諦めきれないバスターは、仲間と共にお忍びでクリスタル・タワー・シアターへ足を向ける。そしてついに、シアターのオーナーであり、ショービズ界の成功者であるオオカミの社長ジミー・クリスタルに直訴するチャンスを得る。ジミーは、バスターたちがクリスタル・タワー・シアターで公演を行うことを許可する。しかしそれには、往年のビッグシンガーであるライオンのクレイ・キャロウェイの出演が絶対条件だった。バスターは何のツテもないのに、クレイを口説き落とし、このステージで歌ってもらわなければならなくなる。しかも、クレイは15年以上人前から姿を消し、一切メディアの前に姿を現していない、まさに「伝説の人」だったのだ――。
本作は、クレイという一人のシンガーの回復の物語を軸に、前作で歌うことの喜びや楽しさを享受した登場人物たちが、さらなる試練に遭うことで、シンガー、パフォーマーとしてのレベルアップを目指して奮闘する展開になっている。
そしてもう一つ、底流に流れるのが「真の能力とは何か」をめぐる過去と現在の対峙(たいじ)である。本作でエンターテインメントの聖地として描かれるレッド・ショア・シティとは、おそらくラスベガスやハリウッドのメタファーであろう。そして、その中心に君臨するジミー、シアターで雇われている視察員、ダンス振付師(サル)らは、「持てる者(富裕層)」の象徴である。彼らは、業績や名声、そして今までのやり方に固執し、そこから外れた者をすべて排除しようとする。一方、バスターはじめ、ゾウのミーナ、ブタのグンターとロジータ、ゴリラのジョニーたちは、才能はあっても名声はない、いわゆる「持たざる者(貧困層)」である。ここに新キャラで無名のストリートダンサー、ヤマネコのヌーシーが加わる。いくら才能やアイデアがあっても、それを認めようとしない「持てる者」たち。彼らの世界に果敢に挑戦する「持たざる者」たち。この構図はまさに、現代の米国の分断、二極化という社会背景がリアルに透けて見える部分である。
本来交わることのない二層の接点となるのが、クレイである。彼の設定は、かつては「持てる者」だったが、その道から外れて今はあえて「持たざる者」に身を落としている老年のシンガーとされている。そんな彼が、「持たざる者」ではあっても歌うことの本当の意味を知るヤマアラシのアッシュと出会うことで変えられていく。この過程を言葉ではなく、まさに「シング」することで描く展開は見事だ。そしてラストは、誰もが願っていた最高のステージへと物語は展開していく。
私は前作レビューの末尾で、「歌にまつわる忘れがちな『信仰』に気付かせてくれた秀作である」と述べたが、続編となる本作は、それをさらに普遍化させた感動を私たちに与えてくれる。偏見や不条理、格差、他者との優劣――そういったものが厳然と存在するこの世界に向かって、恐れや不安、焦りを抱きながらも一歩踏み出す勇気を与えてくれるもの、それが「歌」だというメッセージである。
私たちが毎週の礼拝で賛美を「歌い」、ワーシップソングを「歌う」のは、自らのアイデンティティーを聖書の世界観から頂くとともに、「歌う」こと自体から勇気をもらっていることの証しでもあるのだろう。二極化する世界を一つにまとめるもの、それが歌であるというなら、本作でクレイが果たした役割を、キリスト教の世界ではイエス・キリストが果たしてくれる。私たちクリスチャンは、そう信じて歌うことが求められているのかもしれない。
親子で、また教会の仲間で、ぜひ楽しんで鑑賞していただきたい、春休みにぴったりの一作である。
■ 映画「SING/シング:ネクストステージ」予告編
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