1. 留置場の中で
「当警察署に留置されている被疑者が、『ささき弁護士に接見に来てほしい』と言っています。どうされますか?」
某警察署の留置係から電話が入った。被疑者の名前を聞くと、最近知り合ったA氏だった。彼は数カ月前に信仰を告白してクリスチャンになったばかりだ。びっくりして、その晩に警察の接見室で面会した。
A氏は非常にバツの悪そうな顔をして事実を話してくれた。刑事裁判にかけられ、実刑か執行猶予を争う事案だったが、執行猶予を取るのもかなり難しいと思った。しかし、早期に釈放されないと収入が途絶え、家族が路頭に迷ってしまう。それに、外国との貿易の仕事をしているのに、前科が付くとビザが取れなくなる可能性がある。
私は、今後の事件処理の経過と判決結果の予想を詳しく説明し、新旧約聖書と「ホープナビ」(ワンホープ刊)という聖書を分かりやすく概説した小冊子を差し入れた。そして、「あなたは信仰持ちたてのクリスチャンだから、神学校に入ったつもりで、勾留中に聖書をよく学び、真剣に祈ってください」と言って帰宅した。その後、「お金がないので国選弁護人に弁護をお願いしました」という連絡が奥さんから入り、私はA氏の弁護活動には関与しなかった。
約20日後の勾留期間満了直前に「昨日、釈放されましたので、これからごあいさつに伺います」という連絡がA氏から来た。
面会して即座に「実刑は間違いないと思っていたのに、どうして起訴もされずに釈放されたのですか」と質問した。「はい、国選弁護人も驚いていましたが、警察・検察での取り調べでの私の態度が非常に誠実だったので起訴しないことにしたと担当検事から言われました」とのことだった。
自分の罪を神の前に正直に悔い改めたA氏は、「勾留中に毎日、ホープナビを繰り返し読み、聖書をよく理解するために、御言葉を200枚以上の用紙に書き写しました」と言う。「聖書がだんだん分かってくると、お腹の底から喜びが込み上げてきて、笑顔で取り調べを受けました。私が刑務所に入っても家族は神様が養ってくださるという確信を持ちました」と語り、「これからは、仕事をしながら神学校に通い、将来は牧師になります!」と締めくくった。
2. いつも喜ぶ秘訣
ちょっと難しい問題が起きただけで、私たちは笑顔が消え、喜びを失ってしまい、恐れや悩みに縛られてしまう。しかし、「いつも喜びなさい。絶えず祈りなさい。すべてのことについて感謝しなさい」と、パウロは獄中から外にいる仲間たちに手紙を書き送っている(1テサロニケ5:16~18)。
パウロは鎖につながれていても喜んでいた。いつ出獄できるか分からない、もしかしたら処刑されてしまう、そういう状況でどうして喜んでいられたのであろうか。
「あなたがたは、主にあっていつも喜びなさい。繰り返して言うが、喜びなさい」(ピリピ4:4)。いつも喜んでいる秘訣は「主にあって」、すなわち「キリストに結ばれている」ことである。キリストのぶどうの木にその枝としてしっかりつながっていれば、ぶどうの木からその枝にキリストの命と愛が流れ込んでくるからである。こうして、恐れや思い煩いが締め出されてしまう。主に近づけば近づくほど、喜びが満ちあふれてくるのである。
「あなたはいのち道をわたしに示される。あなたの前には満ちあふれる喜びがあり、あなたの右にはとこしえにもろもろの楽しみがある」(詩編16:11)
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