クーデターの発生を受け、ミャンマーの教会が世界中のクリスチャンにとりなしの祈りを求めている。
ミャンマー南西部ラカイン州在住のザイ牧師は、キリスト教迫害監視団体「オープン・ドアーズ」に、「私たちの希望が取り去られてしまったように感じています」と話した。
「その夜、眠りにつけなかった私は神様に叫びました。私たちの夢と希望、ビジョン、自由が取り去られています。軍事政権下に置かれている私たちの人生は、悲しみと恐れと悩みでいっぱいです。人々は戦争の故に苦しんでいます。停戦を望んでいた私たちは、クーデターが起きて落胆しています」
ミャンマーは1948年に独立して以来、世界で最も長いとされる内戦が今も一部で続いており、常に社会的な混乱が付きまとってきた。とりわけ、キリスト教を信仰している人が多いチン族やカチン族、カレン族が内戦の影響を受けており、ミャンマーのキリスト教徒たちは反体制派と軍の双方による迫害にさらされている。
昨年11月に行われた総選挙に不正があったと主張するミャンマー軍は今月1日、民主化を推進するアウン・サン・スー・チー国家顧問とウィン・ミン大統領、および閣僚ら22人を拘束。このクーデターで情勢は一気に緊迫感を増した。
オープン・ドアーズの協力者であるブラザー・ダニエル(首都ヤンゴン在住)は、「軍事政権にとっては新年を迎えたようなものです」と語る。「中央政府と高官の人事が入れ替わりました。実に悲しいことです」
ミャンマー軍は権力強化のため、軍関係者ら11人を新政府の閣僚に任命し、計画・財務や国境、文化・宗教などの各省を掌握した。
以前から迫害下にあったミャンマーのキリスト教会は、多くの人がこの情勢の変化を深く懸念している。今回のクーデターは、仏教的国粋主義に染まったミャンマー軍が国を完全に掌握したことを意味している。過去数十年間、キリスト教徒が多い地域の村々や、時には教会を襲撃してきたのは、実にこの仏教的国粋主義を掲げるミャンマー軍だった。
キリスト教徒に対する迫害のひどい国々をまとめたオープン・ドアーズの「ワールド・ウォッチ・リスト」を分析しているジャーナリストのジュリア・ビックネルさんによると、ミャンマー軍はキリスト教徒を嫌悪しており、合法的なミャンマー国民とは見なしていないという。
「低レベルではありますが、ミャンマーの少数民族や宗教的少数派に敵対する動きが以前から続いており、宗教的少数派の中ではキリスト教徒が特に標的にされてきました」とビックネルさんは言う。
「軍が完全に権力を掌握した今、議会も議論も討論も骨抜きの状態です。つまり、少数派は今後どうなるか分からない状況にあるということです」
国内避難民と化したミャンマーのキリスト教徒
オープン・ドアーズの現地協力者の一人、デイジーさんは、4千人ものキリスト教徒が国内避難民となってカイン州のジャングルに避難していることに懸念を示した。政治情勢の変化により、ミャンマーのキリスト教徒はますます追い詰められている。
「避難民の中には、バゴー地方域のチャウキーで逃げ場を失った宣教師たちを含め、500人余りのキリスト教徒がいます」とデイジーさんは言う。「逃げ場を失ったキリスト教徒は先に進むことも自宅に戻ることもできません。彼らは食べ物や薬、衣服を必要としていますが、接触することも連絡を取ることも極めて困難です」
ミャンマーでは、放送メディアや電話回線、インターネットなど、あらゆる通信手段がクーデターの影響を大きく受けている。
オープン・ドアーズの別の協力者であるミン・ナインさんは、紛争地域に住むキリスト教徒や国内避難民のキャンプに関する懸念を語った。
「彼らは内戦のせいで苦しんでいます。内戦と新型コロナウイルスの感染拡大で彼らは仕事を失いました。キリスト教徒たちは軍と反体制派の停戦を望んでいましたが、将来は不透明であり、私たちは今、これまで以上に芳しくない状況にいます」
ミャンマー軍が国内の迫害を引き起こし、何百万人ものロヒンギャが隣接するバングラデシュに避難した。ロヒンギャはイスラム教徒が多数派を占めるが、一部にはキリスト教徒もおり、その多くはバングラデシュのコックスバザール難民キャンプで暮らしている。
悲しみと恐れ
国内の電話回線やインターネットが復旧した後、オープン・ドアーズの協力者らは現地の関係者と連絡を取ることができるようになった。現地関係者の中には落ち着いている人もいれば、パニックになっている人やおびえている人もいるという。
「軍がこの地域に駐留しているため、私たちはとても悲しんでいます。教会はこの状況のために祈っています」。北西部サガイン県に住むキリスト教徒のミンさんはそう語った。
キリスト教徒が住民の大半を占めるチン州に住むアウン・タンさん(仮名)は、クーデター後、多くの警官が制服を着て町を守っていると話す。チン州のキリスト教徒たちは長年にわたり、ミャンマー軍による人権侵害を経験してきた。十字架は汚され、絶え間ない脅威にさらされてきた。「まだ何も起こっていませんが、教会はこの状況のために祈っています」とタンさんは言う。
ミャンマーのキリスト教徒が直面するジレンマ
軍事政権に対抗して反体制派が声を上げ始めているが、それによって多くのキリスト教徒が道徳的なジレンマに直面している。聖書には「人は皆、上に立つ権威に従うべきです。神に由来しない権威はなく、今ある権威はすべて神によって立てられたものだからです」(ローマ13:1)とあるが、軍事政権にどこまで従うべきなのだろうか。
ミャンマーの軍事政権に対抗して結成されたグループ「市民的不服従運動」(CDM)は、医療従事者が仕事を辞め、反政府運動に加わることを奨励している。
看護師のメアリーさん(仮名)は、自身が直面するジレンマについてオープン・ドアーズの協力者に語った。
「CDMに加わるべきなのか、それとも病院の規則に従って働き続けるべきなのかを決められずに困っています。CDMに加わった私の同僚たちは、この大切な時期に私もCDMに加わるよう求めています。私は双方からのプレッシャーを感じています」
オープン・ドアーズの現地協力者の一人、デイジーさんは、「メアリーのようなクリスチャンがたくさんいます。彼らは友人や同僚から抗議運動に加わるよう圧力をかけられていますが、その一方で、政府からは今の職務にとどまって働き続けるよう命じられています」と話す。
見捨てられていないことを伝えるとき
ミャンマーのキリスト教徒たちは、来るべき軍事独裁政権がキリスト教に対する不寛容さをこれまで以上に強化することを恐れている。ビックネルさんは次のように訴える。
「ミャンマーのキリスト教徒は440万人もいる大集団ですが、彼らは忘れられた社会集団の一つです。長年続く内戦下で凍りついてしまっていると言っても過言ではありません。今こそ、世界が彼らを見捨てていないことを彼らに伝えるときです」