小さな教会の牧師を務める主人公の父親が、病気の娘を救うために奔走する愛をテーマにした金井純一監督の映画「マイ・ダディ」が、俳優のムロツヨシさんを主演に今年秋に公開される。
主人公の御堂一男は、誰からも慕われる牧師で、優しく、面白く、お人好しで誠実な父親でもある。牧師だがバイトを掛け持ちし、妻とは死別している設定。裕福ではないにせよ幸せな生活を送る一男に、娘の病気という転機が訪れる。予想しなかった方向に父娘の人生は動き始めるが、娘への愛のために一男は動き始める。
キリスト教の中心的なメッセージである「愛」をテーマにした本作に、俳優歴25年のムロツヨシさんが渾身の演技で挑んだ。ムロツヨシさんはツイッターに、「胸を張って観てもらえる映画をつくりました」と投稿。発表に際して寄せたコメントでは、「この物語の父になりたいと思いました。この役というより、この父になりたいと」と言い、次のように話している。
「こういう話があるんだけど、と渡された台本。2時間後に『やらせてください』と連絡していました。それから数年かかってしまって、なんちゃらウイルスのため撮影も延期。それでもここで、この映画制作のお知らせができることに、ただただ喜んでいます。この父をやりきってきました。どうか、どうか、覚えておいてください。そして観たいという期待を持ってください」
本作は、カルチュア・エンタテインメント(CE)と蔦屋書店(TSUTAYA)が映像クリエイター発掘のために開催している「TSUTAYA CREATORS' PROGRAM」(TCP)で、2016年の準グランプリを受賞した金井監督の作品「ファインディング・ダディ」が原案。プロデューサーの遠山大輔氏によると、受賞から4年の歳月をかけてじっくりと温めてきた企画。クランクイン直前に新型コロナウイルス第一波の影響で撮影が延期されるも、心折れることなく、結集した熱い思いを紡ぎ、万全の安全対策を取って撮影したという。
プロデューサーの村上公一氏によると、「生死という難しい題材」を扱った脚本であったため、映画自体のトーンがシリアスになり過ぎる危うさがあった。そこでユーモアのある上質な物語に仕立てるため、シリアスさと笑いをバランス良く演じることのできるムロツヨシさんに一男役を打診したという。
ムロツヨシさんにとっては、俳優歴25年にして本作が映画初主演。そのため金井監督は「この映画だけは、絶対に失敗できない」と、監督として尋常ではないプレッシャーを感じたという。
TCP2016の受賞のインタビューで金井監督は、「ある日見た夢」をきっかけに本作のストーリーを考え付いたと語っている。「『植物状態の母親と中学生の娘。その後、娘は、母親とは実の親子ではなく、同級生と母親の間に血縁関係があることに気が付く』っていうすごいシリアスな夢でした」。金井監督は起きてすぐに夢の内容をメモしたという。映画のネタとしてはうまくまとまらないでいたが、ちょうどTCPが作品を募集していたため、エンタメ寄りのコミカルな要素を入れることでストーリーがまとまっていった。
「ファインディング・ダディ」は、妻に先立たれた主人公・御堂一男(42)と仲むつまじい二人暮らしを送る、明るく、かわいらしい中学生の娘・あかり(13)をめぐる物語。幸せな生活を送っていた二人だが、ある日、あかりに白血病が発覚する。さらに骨髄移植のために行った血液検査で、あかりと一男は血がつながっていないことも判明する。突然の現実に困惑し絶望する一男。しかし、あかりを救うため「本当の父親」を探し出すことを決意する。
聖書には、神を信じる人にも信じない人にも、神が夢で行動の指針を示すエピソードが幾つも出てくる。夢をヒントに生まれた牧師を主人公とする父娘の愛をテーマにした映画に、今秋一際注目が集まる。