これまでも仕事の合間に時間を作って走ってきたが、ちょうど30回目の海外遠征となった今回は、クロアチアの首都ザグレブからイタリアのミラノまで行く800キロ程度の行程を1週間で走ることにした。
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2017年9月16日昼すぎ、雨の降るザグレブに降り立ち、まず街に向かう。もともと同じユーゴスラビアという国であったためか、前年訪れたサラエボに雰囲気が似ている。雨の中、大小特徴のある教会を幾つか見て、一路今回の目的地であるスロベニアを目指す。
次回の旅をどこにと思っていたときに、自転車仲間によるスロベニアの講演を聞き、よい所だなと思ったのがきっかけだ。小さな国なので、ついでにイタリアまで足を伸ばすことにしたのだった。
高速道路は走れないので、離れた所を並行する一般道を30キロほど走った所で国境に。ここで懸念されていたことが・・・。国境によってはローカルな人間しか通れない所もあるが、ここがそうだった。出国はできたのだが、入国はできない。列車でザグレブへ戻り、国際列車に乗り直す提案をされたが、26キロ離れた国境なら越えられるというので、そちらに行くことにした。小雨の中、起伏のある田舎道を行く。ちょうど日が暮れる頃、よい感じの宿があった。
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翌朝も雨。今度は何事もなく国境を無事に通過。この日は北部のブレッド湖に泊まる。観光地で混雑するため、良い場所に泊まれない懸念があったのでホテルを予約しておいた。首都のリュブリャナまで出てから電車に乗る予定だが、前日のルートから離れてしまったこと、雨で地図をバッグにしまっていたため山道での分岐を間違え、150キロとかなり走ることになった。途中で電車に乗ることもできたが、ここは全部自転車で走りたい。
午後は晴れたが、夜電車で着いたブレッドは雨の中だ。翌日朝早く起きて湖を回る。ここへ来たのは湖の中の島にある教会の写真を見て、自分でも見たかったからだが、観光地としてにぎわう教会も早朝は静けさの中に浮かび上がっていい感じだ。朝も雨だが、そのおかげで虹も見えた。毎日雨なのは嫌だが、"No rain, no rainbow" というハワイのことわざを思い出す。
この教会の礼拝堂の鐘は、鳴らすと願いがかなうといわれているのを後で知った(僕は昔見ていたガイドブックというものをあまり見なくなった。そうでなくても情報過多の時代、それで損することもあるが、先入観が入らない方が新鮮でいい)。道理で並んで鳴らしている人が多かったわけだ。それはこの地に伝わる伝承と教会が一緒になったもののようだ。
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この日は前日電車に乗ったリュブリャナへの50キロを戻るだけと余裕があるので、湖で時間を過ごす。出発するとすぐに自転車走行禁止の標識が現れる。この国ではごく普通の一般道でも自転車は走れない所が多い。その代わりに自転車ルートとして整備された道が網の目のように走っているのだが、曲がりくねったり、小さな村の中の道だったり、アップダウンが激しかったりで一般道を走るより時間はずっとかかる。ただその半面、ゆっくりと田舎道の雰囲気を味わうことができる。
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リュブリャナに着く頃にまた雨が激しくなり、とりあえず見つけたホテルに行ってみると、あいにく満室。しかし、スタッフの女性はとても親切で、空いている宿を探してくれた。お礼に折り紙を渡す。
雨のリュブリャナの夜は静かではなく、ちょうどこの国のバスケットボールチームの優勝帰国祝いだとかで、街の真ん中は大騒ぎだった。
翌日はイタリアへと舵を切るが、朝からかなりの雨が降っている。途中には洞窟が幾つかあり、この国の見所になっているので、まず山道を登りプレジャマ城へ。崖の洞窟を利用した城で、建築士としては非常に面白い建物だ。そこからポストイナという鍾乳洞へ。ここは総延長が20キロ以上あり、トロッコ列車で洞窟内を移動する大きさに圧倒される。
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雨は相変わらずで、夜まで一日中降り続いた。長いこと走ってきたが、4日連続の雨もそうだが、朝から晩まで一度もやむことなく雨が降っていたのは記憶にない。走行記録+ナビとして使っているガーミン製GPSをバッグに入れておいたのに、水が染みて壊れてしまった。
翌日はやっと晴れ、イタリア国境を越える。ヨーロッパは、横断した後は歳をとっても走れるからと先延ばしにしていたので、このメジャーな国を走行57カ国目にして初めて走る。先の国境と違い、EU圏内なので何のチェックもない。昔は国を越えるたびに両替し、手間も手数料も掛かっていたが、その必要がなくなったのは便利になったものだ。
入国した街トリエステでは、海岸まで急坂を一気に下って海岸沿いをまず北上し、この日はヴェネツィアへ向かう。平らなので走るには楽になった。さすが自転車の国、イタリアに入ってからがぜん自転車が多くなった。ロードバイクにどんどん抜かされていく。ヴェネツィアへは幹線道路を避けて海から船でアクセスしようと、街の向かいの港へ走って夕方6時の船に乗り込んだ。
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夕陽を浴びる街を見るにはちょうど良い時間にサンマルコ広場近くの港に着いたので、撮影スポットを探して自転車で走っていたところ、いきなり警官に捕まり、有無を言わさず罰金100ユーロを払わされた。自転車は持ち込みすら禁止なのだそうだ。他にも知らなかった人はいるようで、警察署には先客もいた。
ここで自転車に乗るのは非常識かもしれないけれど、自転車禁止の案内なんてなかった。違反させておいて、捕まえて罰金取るとはどこの警察もやることは同じなのか。と言うわけで、そんな人はめったにいないだろうが、ヴェネツィアに自転車で行く人は要注意。
ただ、後で、船のチケット売り場で自転車は載せられないと言われたのを思い出した。僕は船に載せられないという意味だと思って、自転車は畳んで運ぶからと言ってOKをもらって乗ったのだが・・・。普通に載せられたので変だなとは思ったが、あれは街に持ち込み禁止だという意味だったのか。
本来街を通り抜けて陸路の入り口までも行ってはいけないのだが、罰金を払って通過する許可を受けた形となった。翌日観光した後、細い道を自転車を押して行くが、人があまりにも多く広い道を選んだり、橋ごとに担がなければいけないなど、かなり大変だ。船で対岸へ渡ればよかったと思ったが、もう遅い。1時間以上かかってやっと脱出。ここはもう来ることはないだろう。
その後は機乗地ミラノを目指す。1週間の日程で走るのは、このヴェネツィアあたりまでにしておけば余裕があるのだが、飛行機の乗り継ぎが良いミラノ発のチケットを買ったので、ついでにそこまで走ってしまおうと300キロプラスしたので、ちょっとハードになった。北イタリアのこの地域は平地で、距離は稼げると思ったのだが、イタリアの街はそれぞれ歴史があり、建築士としてはいちいちゆっくり見ていきたくなる。また、途中にあるアルプスの雪解け水をたたえた湖も美しい。
最後、ミラノの北にあるコモ湖は、自転車乗りのメッカのような場所なので寄り道をしてみる。峠には、自転車博物館となっている教会があるが、残念ながらそこまで足を伸ばすことはできなかった。
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正味8日間で、走行は950キロと予定より多くなった。荷物も少なく、昔ならどうという距離ではないが、だんだんきつくなっていく・・・。そのうち時間を気にせず、ゆっくり走り続ける旅をしてみたい。
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