「三浦綾子記念文学館と外国樹種見本林」や、植物学者で札幌バンドのメンバーとして知られる宮部金吾が命名した「千島桜」など15件が1日、「北海道遺産」に選定された。文学館は、市民が中心となった独自の民営手法が全国的にも注目され、見本林は、明治期から日本の森林事業の拠点であった北海道の歴史が今も残るとして評価された。千島桜は、北海道大学を代表する植物学者である宮部が命名したことや、北方領土とのつながりが選定理由に挙げられた。
同遺産は、後世に継承したい道内の貴重な遺産を有形・無形問わず選定するもの。2001年に第1回選定(25件)、04年に第2回選定(27件)を行い、北海道命名150年となる今年に合わせ、14年ぶりとなる第3回選定を実施した。昨年12月〜今年3月の募集期間中に64件の申請があり、▽北海道にとっての価値(過去)、▽地域の思い入れ(現在)、▽持続可能性(未来)の3点を中心に評価。各分野の専門家や同遺産協議会の理事ら24人による審査、同理事会による決定を経て15件を選定した。遺産はこれで計67件となった。
見本林は「北海道は私の文学の根っこ」と語り、35年にわたって小説を書き続けてきたクリスチャン作家・三浦綾子の「聖地」といえる場所。デビュー作『氷点』の舞台であり、今年開館20周年を迎えた文学館もこの地に立つ。今年9月には、綾子さんが夫・光世さんの手助けを得ながら執筆活動を行った書斎が復元され、文学館隣に分館としてオープンした。
同協議会は「旭川駅から『氷点通り』『氷点橋』『三浦綾子文学の道』を経て見本林へと続く道は、“三浦文学ワールド” と呼ぶにふさわしい。市民が守り育てる文学と森は、氷点のまち・旭川を象徴する癒やしと憩いのスポット」としている。
一方、千島桜は、宮部がハーバード大学留学時の学位論文で、千島列島に自生する桜として「チシマザクラ」と記述したのが最初とされる。毎年桜前線が北上し、最後に咲く桜として親しまれており、同協議会によると、かつて北方領土に住んでいた人々には「ふるさとの花」として親しまれている。
宮部は、北方植物研究のパイオニアとして知られ、北海道大学植物園初代園長や日本植物学会会長などを務めた植物学者である一方、札幌農学校(現・北海道大学)の2期生であり、内村鑑三や新渡戸稲造と共に米国人宣教師メリマン・コルバート・ハリスから洗礼を受けたクリスチャンでもある。3人は札幌バンドの中心的なメンバーで、それぞれは生涯にわたり親友同士だったとされている。
新たに選定された遺産は他に、近年発見された日本初の大型恐竜全身骨格化石である「むかわ竜」を含む「むかわ町穂別の古生物化石群」や、アイヌの人々の助言と協力を得ながら6度にわたって「蝦夷(えぞ)地」(北海道)を探索し、北海道の名付け親とされる「松浦武四郎による蝦夷地踏査の足跡」など。
これまでに選定された遺産でキリスト教にゆかりのあるものとしては、函館ハリストス正教会(函館市)やカトリック元町教会(同)などを含む「函館西部地区の街並み」や、米国人宣教師ジョージ・ペック・ピアソン、アイダ・ゲップ・ピアソン夫妻の私邸を用いた「ピアソン記念館」(北見市)などがある。ピアソン記念館は、信徒伝道者であり、建築家として日本で多くの西洋建築を手掛けたウィリアム・メレル・ヴォーリズが設計した日本最北の建築物でもある。