現存する世界最古の大学の1つで、イスラム教スンニ派の最高学府であるアズハル大学(エジプト)が、同大の医学研修プログラムでキリスト教徒の学生を受け入れた。一部からは、由緒あるイスラム教の学校が史上初めて公式にキリスト教徒の学生を受け入れたとして注目を浴びている。
米ワシントンに拠点を置く中東専門ニュースメディア「アルモニター」(英語)によると、アバノウブ・グイルグイス・ナイームさん(男性)は、エジプト中部最大の都市アスユートにあるアズハル大歯学部のカリッド・シディック学部長により、5月17日に正式に受け入れが認められた。
シディック氏はアルモニターに、「ナイームさんは医学研修生として当学に応募し、他の学生と共に受け入れられました」と語った。
アルモニターによると、ナイームさんはアズハル大が受け入れるキリスト教徒の学生としては「初めて知られる事例」だという。同大の歴史は、マドラサ(イスラム世界における学院)として開校した970年にさかのぼり、千年以上の歴史がある。1961年に公立大学の地位を取得している。
アズハル大を卒業した医師のT・Yさんは、同大の医学研修プログラムに入ることが狭き門であることから、同大に対する批判者へのメッセージとして、ナイームさんの受け入れが許可された可能性があるとアルモニターに語った。
「私立大学を卒業してアズハル大で医学研修を希望する学生が全員受け入れられるわけではありません。志願者数が大学病院のニーズと受け入れ能力を上回っているため、一部の学生は受け入れを拒否されます」
「受け入れの判定は、学生の成績や居住地、学生が卒業した私立大学とアズハル大との間に医療関係者の雇用に関する合意があるかどうかなどに基づいて行われます。アズハル大はナイームさんをあえて受け入れることで、同大がすべてのエジプト人に開かれており、イスラム教関連科目に関する大学の規定に違反していないことを示そうとしているのです」
ナイームさんの受け入れが認められる前、ムハンマド・アブ・ハメド議員は、アズハル大の入学受け入れ策を批判し、イスラム教徒であろうとキリスト教徒であろうと、すべての学生が同大で学ぶことを許可すべきたと訴えていた。
ハメド氏は、アズハル大の非宗教的専門分野は、エジプト大学高等評議会の統括下に入るべきだと主張。今年初めには、アズハル大の非宗教学部を同評議会と提携させる法案を国会に提出していた。アルモニターによると、ハメド氏の法案で評議会の統括下に入る学部は、医学部、工学部、メディア・コミュニケーション学部で、法案が通った場合、これらの学部は非イスラム教徒の学生が入学できるよう強制されることになる。
ハメド氏の批判に応えて、アズハル大の広報担当者であるアッバス・ショーマン氏は3月、声明を発表。「いかなるエジプト人も、アズハル大で学ぶことを妨げる条項はないが、入学条件を満たせるのはイスラム教徒だけである」とコメントしていた。
「キリスト教徒がアズハル大で学ぶためにコーランを暗記するだろうか。それはないだろうから、アズハル大における教育制度はキリスト教徒に適さない。入学条件は彼らにとっては厳しい。当学は、イスラム教教育科目を削除したり、キリスト教徒にイスラム教教育科目の受講を免除したりすることはできない」
しかし、ショーマン氏は、アズハル大に学生として通うことと、医学研修プログラムを受講することは同じではないと、アルモニターに語った。
「大学での研究には講義と理論科目があり、キリスト教徒が受講するのは難しいと思います。なぜなら学生たちは、科学科目以外にも、コーラン研究、法律学、イスラム法やイスラム教教理などの宗教科目を受講するからです」とショーマン氏は言う。「しかし、医学研修プログラムは、学生がすでに習得している科目の実践訓練ですから、研修プログラムのために大学に入る学生がイスラム教関連の科目を勉強することはありません」
一方、シディック氏は、ナイームさんがアズハル大の医学研修プログラムで受け入れられる最初のキリスト教徒の学生ではないと主張している。しかし、シディック氏はアルモニターとのインタビューでは、同大の医学研修プログラムに参加したことのあるキリスト教徒の学生の名前を挙げることはできなかった。
「過去数年間に設置された訓練コースに、多くのキリスト教徒が参加しています」とシディック氏は話している。
しかし、T・Yさんは、ナイームさんがアズハル大で公式に認められているキリスト教徒の学生の最初の事例だとアルモニターに語った。
「大学当局がナイームさんの事例を推し進めたのは賢明でした。なぜなら、アズハル大の本当のメッセージは、同大がエジプト社会にあるすべての宗教を差別なく受け入れているというものだからです。意図的であるかどうかは別として、大学がキリスト教徒を拒んでいるというハメド議員の主張に対する最善の対応です」
「ナイームさんは、入学が許可されるはずがないとか、学生たちから拒絶されるはずだというプロパガンダの説得にめげることなく、アズハル大によく入学したと思います。キリスト教徒の学生は、これまでにアズハル大のインターンシップに応募したことはないかもしれません。なぜなら、彼らは受け入れられないだろうと考えたはずですし、特に、キリスト教徒の講師陣が非常に限られていることを考慮すれば、状況的にそぐわないと感じたかもしれないからです」
T・Yさんは、ハメド氏の主張に反対してはいないものの、アズハル大がキリスト教徒や他の非イスラム教徒を差別しているという主張は「まったく正しくない」と考えている。
「アズハル大は多くのメディアや政治家から攻撃されています」とT・Yさんは言う。
ナイームさんの入学は、エジプトのキリスト教徒に対する迫害が、昨年増加したことに呼応している。キリスト教徒は、イスラム過激派によって実行されたとみられる殺人事件や、複数の教会に対する爆破事件でも標的にされている。
エジプトのアブデルファタハ・アル・シシ大統領は、2015年の旧正月にアズハル大で講演し、イスラム過激主義に終止符を打つ「宗教革命」を主導するよう、イスラム教の聖職者らに求めた。
シシ氏は講演で、「あなたがたイマム(イスラム教の指導者)は、アラーの前に責任がある。全世界、もう一度言おう、全世界があなたがたの次の動きを待ち望んでいる。なぜなら、このウンマ(国際的なイスラム共同体)は引き裂かれており、破壊されており、失われているからだ。しかも同国人の手によって」と訴えていた。