17世紀バロックを中心とした教会音楽を演奏するアンサンブル「Affetti mvsicali(アフェッティ・ムジカーリ)」の第4回演奏会「J.S. バッハの葬送音楽とドイツ・バロックの宗教的歌曲」が18日、日本福音ルーテル東京教会で開催された。約200人が集まり、気鋭の演奏家たちによる心のこもった演奏を通して、ドイツ・バロック時代の音楽に込められた思いを共に分かち合った。
演奏会は、ドイツの作曲家、オルガニストのヨハン・クリーガー(1651~1735)の「前奏曲とフーガ ハ長調」で始まった。演奏は、チェンバロ、フォルテピアノのソリストとして、またアンサンブル・通奏低音奏者として国内外で幅広く活躍する大村千秋氏。この後、ソプラノとテノールによる宗教的歌曲へと続き、ゲオルク・ベーム(1661~1733)とヨハン・セバスチャン・バッハ(1685~1750)による5曲の歌曲が演奏された。
ベームは、ドイツ・テューリンゲン地方の有名な教会オルガニスト。オルガンやチェンバロといった鍵盤楽器の作曲家としても名を残し、バッハにも影響を与えているほどだが、演奏会で彼の曲を取り上げるのは非常に珍しく、ソプラノの神山直子氏、小島芙美子氏、冨山みずえ氏、そしてテノールの堀越尊雅氏が歌った4曲は、貴重な演奏となった。これらの歌曲は、詩編やイザヤ書を基にして牧師が詩を書いたとされる。葬送音楽がテーマの今回の演奏会ではあるが、ここではどれもかわいらしい響きを持つ歌曲が披露された。
続いて、プログラムのメーンとなるバッハの葬送音楽、モテット「イエス、わが喜びよ」BWV. 227が演奏された。ライプツィッヒ時代に作られた同曲は、イエスへの信頼を歌うコラールの歌詞と、新約聖書のローマの信徒への手紙8章の御言葉が、オルガン、バロック・チェロ、ヴィオラ・ダ・ガンバの奏楽に合わせて交互に歌われるモテット。曲調が急に静かになったりと音の変化が多い楽曲だ。
演奏会では、礼拝堂正面の壁に全曲の歌詞が写し出され、どういうことが歌われているのか演奏と同時に知ることができるようになっていた。歌詞を知ると、曲調の変化が、罪の厳しさや神の憐れみや優しさを示していることに気付かされる。
「私にとって、イエスが最も尊い存在」と歌うコラールから始まり、「悲しむことはない、喜びの源なるイエスが悲しみを和らげてくれる」と慰めのコラールで終わるのだが、演奏中、言葉をのせた音の一つ一つに、重要な意味があることを強く感じさせた。
この日のもう1つのメーンとなる曲は、カンタータ「神の時こそ こよなき時」BWV. 106。演奏は、歌手、奏楽、指揮者も含め総勢15人での演奏となった。この曲は、バッハが21歳ごろに作ったというカンタータで、プログラムに「Actus tragicus(哀悼行事)」と記されており、若いバッハが「死」の問題に対して、聖書の言葉をテクストにして正面から向き合った作品だという。指揮者の藤原一弘氏が生まれて初めて聴いたバッハのカンタータであり、恩師との出会いの曲でもあるという記念的な作品だ。
全体のテーマは、「神の定めた時が最善である」とされ、旧約聖書では、律法に定められた死への備えについて、新約聖書では、キリストの福音による救いと復活へと通じる死についてそれぞれ歌われる。古楽器の響きは音楽に彩りを与え、若いバッハのみずみずしさがあふれ、その歌詞と共に深く心に残る演奏となった。
演奏会では、他にもゲオルク・フィリップ・テレマン(1681~1767)の「小フーガ19番ニ長調」「来たれ、甘き眠り」「主よ、今こそ僕を安らかに往かせ給え」、ヨーハン・バッヘルベル(1653~1706)の「第5旋法のマニフィカト・フーガⅤ-1」が演奏された。2時間にわたる演奏会は、演奏終了後も拍手が鳴りやまず、礼拝堂は大きな喜びに包まれた。
バッハ以前の音楽とオルガン音楽を専門とする藤原氏が率いるアフェッティ・ムジカーリは、3年前に設立されたアンサンブル。藤原氏は音楽によって信仰に導かれた経験を持ち、同アンサンブルも、教会音楽を歌うことを通して神の言葉を伝える器として用いられることを願い、活動を続けている。
演奏会に来場した30代の女性は、「滅多に聞けない作曲家の作品もプログラムに入っていてとてもよかった。素晴らしい演奏だった」と述べ、また、別の60代の女性は、「葬送音楽と聞いていたので、暗い音楽をイメージしていたが、とてもきれいな曲ばかりで感動した」と感想を語った。