クリスマスイブの夕べになりました。少し暗くなると、外の大きな木につけたイルミネーションがキラキラかがやき出しました。昼の間お日さまの光をためたライトは、あたりが暗くなるとひとりでに光り出すのだそうです。
6時になるとイブ礼拝が始まりました。教会堂の電気は消えていますが、長いすの前の机には、1本ずつろうそくが用意され、ほのかな光の中でさんびかを歌ったりお祈りをしたり、牧師先生のお話も、とてもわかりやすいやさしいお話ですし、いつもより短いので、子どもたちもたいくつしません。
「きよしこの夜」を歌って、ほかの何曲かむずかしい歌を聞いて、最後に大きな声で「もろびとこぞりて」を歌いました。
ケンタは教会学校の先生に「もろびとって、どこの国の人ですか」と聞いて、「世界中の人みんなという意味だよ」と教えてもらって、そうなのかと新しい知しきを得たばかりでしたので、大きな声で「もーろびと こぞりて」と歌いました。
礼拝が終わって、電気がついた会堂の中は、ふき消したろうそくのけむりで、のどがイガイガしましたけれど、大人の人たちがすぐに窓を開けてくれ、紅茶(こうちゃ)とチョコレートとクッキーをもらいましたので、満足でした。
いつもは、夜、紅茶なんて飲まないのに、大人になったような気分でした。おまけに今から、クリスマスのキャロリングに行くのです。聖歌隊(せいかたい)の大人に交じって、3人組も出かけることがゆるされたからです。
行き先はレインボー・ホーム。ケンタのパパのつとめさきで、月山さんがいる老人ホームです。ケンタのパパやママ、シュンスケのパパやママ、それにユキトのママもいっしょに行きました。
最近はイブのキャロルも音がうるさいと言われて、昔のようにみんなの家を回れなくなったそうです。レインボー・ホームは1階の部屋の中で歌ってもいいとゆるしてもらえたけど、さわいじゃだめだよって、子どもたちは言われていました。
でも、夜、大人に交じってクリスマスの歌を歌うなんて、大こうふんでした。何人かのお年よりの中に月山さんがいました。車いすにすわった月山さんは元気そうでした。
クリスマスの歌を何曲か歌って、「メリークリスマス、メリークリスマス、メリークリスマス、ツーユー、メリークリスマス、メリークリスマス、メリークリスマス、ツーオール」と最後に短く歌い、みんなで「クリスマスおめでとうございます」とあいさつをしました。プレゼントを一人一人に配って、それから牧師さんが月山さんとあく手して、いろんな人が月山さんに声をかけ、最後に子どもたちも月山さんのそばに行きました。
「ああ、きみたちか」。月山さんは覚えていてくれました。そして、「プレゼントのお返しだよ」と言って、紙に包んだプレゼントを3人に1つずつ、わたしてくれたのです。
その翌日、3人は教会に集まりました。大人の人たちが後かたづけをしています。子どもたちは庭のすみっこで秘密会議をしています。ケンタのもらったプレゼントは緑のかけら、シュンスケのは青いかけら、ユキトのは赤いかけらでした。
おまけに小人のビタエからもらったプレゼントに重ねると、ぴったり合ってきれいな丸い玉になったからです。
「月山さん、ビタエに会ったことがあるんじゃないかな」
「どうして3つもかけらをもっていたんだろうか。どうしてぼくたちのもらったかけらの色がわかったんだろうか」
「こりゃあ、どうしても、もう一度月山さんに会わなきゃならないなあ。でも月山さん、認知症なんだよ。日によって具合のいい時と悪い時があるんだって。眠っている時もあるし」
「それに、今日の夕方、家に帰らなきゃならないし」とユキトが言うと、「じゃあ、今から行こうよ」「月山さんにプレゼントのお礼を言いに行くって、ことわって来るから」とケンタが言って、かけ出していきました。
「行ってもいいけど、車に気をつけなさいよって言われた」と聞くなり、子どもたちはレインボー・ホーム目指して、歩き出しました。ホームまでは20分くらいの道中でした。いいお天気で良かったですね。
月山さんはつかれて眠っていました。子どもたちは紙に「ありがとうございました」と大きな字で書きました。「ぼくの赤いかけらと、前にもらったかけらと合わせると赤い玉になりました・・ユキト」「青いかけらも同じです・・シュンスケ」「緑のかけらも玉になりました・・ケンタ」と、その下に書いて、「小人に会うにはどうしたらいいでしょうか」と、付け加えました。
まもなく正月になり、学校がまた始まって、ふつうの毎日が続きました。月山さんからは何の連絡(れんらく)もありませんでした。
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