去る4月9日、韓国では第18回総選挙が実施された。今回の総選挙では日本だけでなく全世界で物議をかもしている統一協会が平和統一家庭党(以下、家庭党)を登録し、全国245箇所で国会議員候補者を立て莫大な支援をしていて(これは既に報道された)、韓国の教会は緊張した。そのため、一部の福音主義教会の牧師達も家庭党に対抗してキリスト教政党を創って投票を督励したが、キリスト教政党は地域別候補者は立てず、単に全国区(比例代表)議員の候補だけを内定しておいた。
全国区(比例代表)では、ある政党が全投票者の3%の票を獲得したら、自動的にその政党が2名以上の国会議席を獲得できる。統一協会もキリスト教もこれを当てにして宗教政党を作ったことになる。
筆者自身もキリスト政党から支持を求めるメールを何通もいただいた。しかし、キリスト教の政党は韓国教会全体の支持は得られなかった。韓国のクリスチャンは、宗教が政党を作るのを大抵支持しない。なぜなら既に多くの多数政党の中にクリスチャン議員がいるのだから、彼らを通じて統一協会を阻止すればよいとの立場だからである。一般政党を通じて、キリスト教の固有の価値(宗教の文化的使命)を表すことを望んでいるのである。また韓国の教会は昔もこのようなチャレンジがあったが、失敗した経験を覚えている。そのため、キリスト教政党の失敗によって韓国教会全体が被る大きな損害を心配している。
一方、統一協会の家庭党は選挙に際して莫大な人力を動員して広報した。うわさによれば毎選挙区あたり10億ウォン(約1億400万円)を投資したと言われている。一つの町で広報するとき、毎度動員される人数も20〜30人を超えた。人だけでなく広報用の車も何台も用意した。筆者がある女性の運動員に、あなたも統一協会の信者ですかと聞いたところ、違うと答えた。家庭党は派手に始まりはしたものの、結局のところ投票数はキリスト教政党が得た票数の半分にも及ばなかった。この2つの政党(キリスト政党、家庭党)のうち、キリスト政党は44万3705票で全体得票率2.59%を獲得。家庭党は18万785票で1.05%の得票率に終わった。これはキリスト教としては幸いだった。
統一協会の統計によれば統一協会の全信者は80万人となっているが、今回の総選挙で統一協会が得た票は20万にも達せず、実際の統一協会信者の統計も正確ではない可能性も考えられる。しかし、韓国の統計的な間違いも指摘しておきたい。日本の場合は、宗教に関しても正確な統計を発表してるが、韓国の場合は、特に宗教に関する統計は正確でない場合が多い。したがって、統一協会の勢力は思ったより弱い可能性も考えられるし、または勢力の大きさに比べて凝集力は弱い可能性も考えられる。ただ、統一協会が選挙にこれほどの資金をかけたことで浮かんだ疑問は、統一協会の資金の出所は何であるかについてだった。日本では統一協会への反感が強いが、その資金源の多くは日本だと言われている。
統一協会は民族宗教として始まった。現在は日本及びアメリカにまで拡大し、ある意味では日本の創価学会とも比べられる。日本は世界的に大国であって、特に経済的には大きな影響を世界に与えている。しかし、どうして日本の固有宗教は世界性をもてないのだろうか。
今回の韓国総選挙の結果をまとめると、与党は勝利(153議席)したが党内での協力体制の強化を求められている状態であり、左翼理念を持っている政党(野党)は後退(81議席)した。全体的には保守政党が勝利したと見られる。
韓国ではキリスト政党についての反感は強く、反対運動まであった。キリスト政党は一部の大型教会の牧師と一部の宣教団体からの支援を受けて選挙に出た。この過程を見ながら、韓国の社会や教会はキリスト教の政治化を強く反対していることがわかる。これは統一協会の家庭党でも例外ではない。
このような雰囲気の韓国社会で、イスラムが多くの改宗者を得るのは難しいと思われる。民主主義が発展している韓国で、非民主的なイスラムの立場は苦しいのである。
【全浩鎭 (ジョン・ホジン)】 1940年、大阪生まれ。韓国・高神大学、同大学院卒業、米国・ウェストミンスター神学校神学修士課程修了、米国・フラー神学大学宣教学博士課程修了、英国国立ウェールズ大学哲学博士課程修了。その後、高神大学学長、平澤大学学長、亜細亜連合神学大学大学院院長、トーチ・トリニティー神学大学院教授などを歴任。現在は、イスラエル及びイスラムネットワーク会長、韓半島国際大学教授。著書に、「宣教学」(85年)、「宗教多元主義と他宗教宣教戦略」(92年)、「アジア・キリスト教とミッション」(95年)、「人種葛藤時代と未伝道種族ミッション」(00年)、「イスラム―宗教家イデオロギーか」(02年)、「文明衝突時代のミッション」(03年)、「転換点に立つ中東とイスラム」(05年)(いずれも韓国語)などがある。