私は〝スルメ〟
電気メーカー・セールスエンジニア 根田裕道
「あなたのしようとすることを主にゆだねよ。そうすれば、あなたの計画はゆるがない」(箴言16章3節)
私1人で仙台に営業所を開設したのは、1982年10月でした。これから東北に新幹線が開通しようという矢先に、会社は東京本社と大阪、名古屋のみに集約して営業展開しようとしていました。でも、これから東北が伸びようという機運が高まっているとの思いの強かった仙台出身の私は、当時の上司(現会長)へ将来の成長を考えたほうが良いのではないかと具申しました。上司からはもう役員会で決定したことだからとのことで、仙台は諦めてくださいとの返事でした。
しかし、会社の将来を考えると、納得いかなかった私は朝な夕なに上司を説得しました。当時29歳の若かった私でしたが、あまりの熱心さについに上司は臨時役員会を開き、そんなに言うならお前が仙台で1人でやってみろということになりました。
さて、息巻いて仙台へ1人で出て来たものの、技術しか能のない私は営業もままならず、また中小企業の名もないメーカーで特殊な電気製品でしたので、すぐ売れるわけもなく、日がな1日、窓の光も差さない机1つの倉庫みたいな事務所で途方に暮れていました。ほとんど売り上げもなく、当然自分の給料分なぞ稼げるわけもありませんでした。でも、会社から月給が振り込まれて来るのです。今まではこんな安月給では暮らしていけないと思っていましたが、なんと有り難いことか、つくづく感謝しました。
そして、自分が技術屋であるということで思い上がっていたことに気付きました。私は高慢でした。やっとへりくだることができたとき、客先との関わりも良くなり、少しずつ仕事が来るようになりました。ある時、重要な目上のお客様から「あなたは〝スルメ〟のようだ」と言われました。その心は、噛めば噛むほど味が出るということでした。私は〝スルメ〟か。でも、感謝でした。ここまで成長させていただいた御言葉に、力を感じました。
その後、1人、2人と所員を増やし、営業所として確立させていきました。しかし、部下を持ったことのない私は、所員の能力を生かし切れずにいました。もっと困ったことに、中途採用の1人が自分こそはリーダーとの勢いで所員を翻弄(ほんろう)しました。転機は、仕事の中での客先とのやりとりでした。1人の所員がしたことに対し、お客様が大変ご立腹していたときです。
私が前面に立ち責任を負い、客先の怒りを沈めることができました。それから、その所員は私の指示に従うようになり、社内風土はがぜん良くなりました。それをきっかけに所員が一丸となり、大きな売り上げと大きな利益を上げることができるようになりました。仙台営業所を立ち上げると言ってから、もはや32年がたち、私は62歳を超えました。少し高齢になりましたが、いつまでも〝スルメ〟のようでいたいと思います。
*
【書籍紹介】
カレブの会編『この時 聖書を開いた―31人に訪れた神の祝福―』
私たちはみな、退職後のさまざまな不安を抱えています。夫婦や家族関係の在り方、体力の衰え、病、経済のこと、伴侶との離別、孤独等々。この世の人々が行く同じ道を歩みます。「夢」がコインの表だとすれば、弱さを味わう「軟着陸」はその裏面です。幸いなことに、この弱さは私たちを成熟へと導いてくれるだけでなく、しばしば夢と使命を与え、御国を広げる道へと導いてくれるのです。
現役で働いている方にとっては、示唆に富んだ言葉に、生き方の確かなヒントやアドバイスが与えられます。同世代の人にとりましては、生きる勇気や力が湧き上がり、その励ましを共有できる本です。
ご注文は、全国のキリスト教書店、Amazon、または、イーグレープのホームページにて。
《 目次詳細を表示 》 / 《 非表示 》
目次
巻頭言 約束を信じた人々 「カレブの会」代表 小川 吾朗
私が教えられたこと①
一章 愛・希望・勇気を人間関係から学んで
営業経験を生かした人脈造り 市村昌三郎
古里伝道を目指して 遠藤 誠一
なくなる食物のためではなく 香川 和生
三つのチャレンジ 北原 祥光
聖句 隣人を愛しなさいは、私の人生の永遠のテーマです 佐藤 文紀
教育の原点は愛にあり 原田 浩司
仕事と人生 本田 英一
キリストに接木されて 山本 文夫
主ご自身が、私たちの心を慰め強めてくださる 横倉 順治
仕える者に 吉田 富次
私が教えられたこと②
二章 クリスチャンビジネスマンの使命を与えられて
三回のリストラからの奇跡的な解放 秋山 幹生
定年ではなく、墜落による退職とその後 伊藤 博康
一所懸命から一生懸命へ 志田 保夫
クリスチャンビジネスの原点 棚沢 英樹
神様が示される道を求めて 田宮 清
私は〝スルメ〟 根田 裕道
存在感のある人になる 八尋 隆幸
主の恵み・世と誠実にかかわる 山田 貫司
権威に従う 星野 隆三
私が教えられたこと③
三章 主と共に夢実現の道を歩んで
いつも相談に応じてくださる神さまに感謝! 伊藤 紘一
クリスチャンの「コレクティブハウス」を創ろう 江波戸啓悟
神様の深いご配慮に守られて 加々美 要
退職経験から学んだこと─主の救いと導きに感謝─ 神山 武
数々の試練を通して与えられた教訓 門谷 晥一
困難を極めた就職活動・悪戦苦闘の日々と神様の恩寵 来間 幸夫
御言葉が示すミッションとビジネスの成功法則 田口 誠弘
私たちの心は燃えていたではないか 谷 雅史
傘寿を迎えて 西山 久生
ビジネス経験が退職後の別世界に生かされる 畠山 義則
「主と同行二人」で歩む 藤田 達雄
主の恵みに生かされて。リタイアの前、直後、そして今 吉野 輝雄
◇