「鹿児島に1泊40万円する高級ホテルができたらしい」と聞いたときは、そんなところに宿泊する人はいるのだろうかと驚きました。しかも「2年先まで予約でいっぱいになっている」という話にも驚きました。
そのホテルを経営しておられるT社長のお話を聞いてみたいと思っていましたが、お目にかかる機会が与えられました。その社長は高価なものは一切身に付けず、履物もウォーキングシューズでした。とても謙虚な方でどなたにも気さくに応じておられました。
その社長の実家はもともと温泉旅館だったそうです。ところが川沿いにあったため、台風で川が増水して流されてしまったというのです。何とか再建したいと思ったのですが、当時サラリーマンで余分なお金もなかったため、処分するという古い農家のわらぶきの家をもらい受け、自力で組み立て、川から拾ってきた石を敷き詰めて、風呂場も造ったというのです。
隠れ里の古民家の宿として、1日1組限定の宿屋を始めたそうです。料理のほとんどは囲炉裏(いろり)で準備し、昔風の生活を楽しんでいただくというコンセプトでした。庭はニワトリが走り回り、昔の農家の風景そのままでした。ただ自分の労働の対価は欲しいということで高めの料金設定をしました。しかし、評判になり、客足は途絶えることはなかったそうです。
近くの山林を所有しておられる農家の方々が、「林業が振るわないので山が荒れ放題だ、誰か管理してくれないだろうか」という話があったそうです。T氏は広大な山林を買い、整備していき、山頂に温泉付きのホテルを造ったのです。山を管理し、ホテルを維持していくためにも高級ホテルにしていこうと思われたそうです。
1泊40万円のホテルに宿泊してもらうために、地元ではなく世界の富裕層に目を向けました。ほとんどの富裕層は1週間以上連泊するそうです。空港からホテルまで車で30分以内の距離なのですが、ヘリコプターをチャーターし、桜島と錦江湾を空から見てもらうと、ほとんどのお客様が感嘆の声を上げられるそうです。それでも満足度が足りないと思ったら、屋久島上空まで飛んでもらうそうです。自然界をそのまま見ていただくだけで満足してもらえるのです。
ホテルには中古のジープを用意し、使われなくなった林道を自由に走ってもらい、川で釣りをしてくるアドベンチャーコースが喜ばれるそうです。また、地元の農家の方々に仕事として立木の枝払い、敷地内にある畑に無農薬の野菜の植え付けなどをお願いして、その働いている様子もお客様に見ていただくそうです。エンターテイメントとしてとても興味を持って見学しているそうです。地元の雇用の創出にも貢献しておられます。
客室の設備には投資されたかもしれませんが、原則として自然の魅力を堪能してもらう姿勢ですので、世界中の人工的なものを満喫してきた富裕層にはとても新鮮に映るということでした。
私はT社長のお話を聞いて目が覚める思いをしました。無いものを欲しがらずに、有るものを感謝し、活用していこうと決意させられました。
「乏しいからこう言うのではありません。私は、どんな境遇にあっても満ち足りることを学びました。私は、貧しさの中にいる道も知っており、豊かさの中にいる道も知っています。また、飽くことにも飢えることにも、富むことにも乏しいことにも、あらゆる境遇に対処する秘訣を心得ています。私は、私を強くしてくださる方によって、どんなことでもできるのです」(ピリピ4:11~13)
カリフォルニア州のある教会は、礼拝時の出席者が3千人を超えるということで、礼拝堂も体育館みたいな大きな建物でした。その教会の牧師室に行くと、創立当時の写真が飾られていました。
教会のスタートは牧場の近くを流れる川の畔から始まったというのです。最初は野外集会だったそうです。雨が降ると傘を差して集会を守ったそうです。資金が少しできたら、最初は農家の納屋を買い、自分たちで内装工事をしてチャペルを造ったそうです。外観は納屋だったのですが、「これで雨が降っても大丈夫」と言って、集会の参加者も喜んだという話を牧師がしてくれました。
いくらキリスト教国といっても、全てが整った状況の中で教会がスタートするわけではないということが分かりました。現在与えられているものを感謝し、活用していく中で成長も与えられます。
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