島津製作所(京都市)が昨年10月末、本社建物内にイスラム教の礼拝室を整備したと、京都新聞が伝えた。東南アジアなどから訪れるイスラム教徒の顧客が増えており、信頼関係づくりのために設けたのだという。イスラム教徒は、1日に5回の礼拝が義務付けられている。場所はどこであっても構わないが、各礼拝の前に手や口などを水で清める必要があり、水場の整えられた環境であることが望ましいとされている。
世界のイスラム教人口は、2010年の時点で約16億人。30年には約22億人になると予想されており、世界人口の30%以上を占めるキリスト教に迫る勢いだ。人口の増加だけではなく、平均年齢が若いこともあり、今後イスラム諸国における消費拡大が見込まれている。
商業取引だけにとどまらず、イスラム諸国からの訪日外国人も年々増加している。その背景には、外務省による東南アジア諸国の訪日ビザ免除・緩和がある。
人口の60%がイスラム教徒のマレーシアは、1993年以降、日本への旅行客に対しビザ取得が勧奨されていたが、昨年7月、IC旅券(パスポート)を所持する短期滞在目的のマレーシア国民のビザ免除措置が実質的に再開された。また、イスラム教徒が人口の88%以上を占める世界最大のイスラム教国・インドネシアについても、昨年12月から、IC旅券を所持するインドネシア国民の事前登録制によるビザ免除の運用が開始され、さらなるイスラム教徒の旅行者増加が見込まれている。
こうした現状を受けて、近年、イスラム教礼拝室の設置が空港や商業施設などで進んできているが、国内の法人が社内に設ける取り組みは珍しい。
礼拝室だけでなく、イスラム教徒の食事に配慮したさまざまなサービスも展開されてきている。イスラム教では、豚肉、血液、酒などを不浄な食べ物だとし、口にすることが害とされているため、「ハラル」と呼ばれる、イスラム教の教えで許された「健全な商品」でなければ食べることができない。世界各国にハラル認証機関があり、日本にもいくつかの機関が存在する。
全国にカラオケ店を展開するコシダカ(東京都港区)は昨年末、ハラルに対応した飲み物や料理を提供する国内初のカラオケ店を都内に新規オープンした。
また、はとバス(同大田区)は、昨年10月から、英語で案内するツアーに「ムスリムフレンドリーツアー」を加えた。イスラム教徒の集団礼拝の日とされる金曜日に「金曜礼拝コース」を運行し、旅程に日本で最大級のモスク・東京ジャーミィ&トルコ文化センターでの礼拝、見学、またハラル認定レストランでの食事を組み込むなど、工夫が見られる。
東京商工会議所が企業を対象に昨年12月に開催した「ムスリム観光客受け入れ対応セミナー」は、締め切り前に定員に達するほどの評判だった。20年の東京オリンピックを視野に入れ、礼拝室やハラルメニューを備えた施設が、さらに日本国内で拡大していくと思われる。
だが、マレーシア、インドネシアだけを見ても、イスラム教とキリスト教の対立がしばしば報じられていることから、受け入れる日本側にも、一神教の宗教へのさらなる知識が求められてくるのではないだろうか。イスラム教徒の訪日観光客の増加、それに伴う市場の変化が、日本人の宗教理解にどのような影響を与えるのかが、これからの注目点だ。