旧約聖書に見る本来の労働の姿
(1)ヨセフに見る本来の労働の姿
旧約聖書に見る本来の労働の姿として、ヨセフの労働を取り上げる。ヨセフは17歳で売られ、エジプトの王パロに仕えるようになった時は30歳。38歳の時にエジプトの総理大臣となった。17歳の時にすでに夢によって神からの語りかけを受けたが、既にこの時、自分は主に呼ばれたものであるとの何らかの自覚を持ったと思われる。
その後の彼の働きの人生において、ヨセフは本当に多くの試練に会ったが、彼は困難な状況の中でも自分の人生の不幸を呪うということをせず、むしろ新しい環境で生き生きと活躍をした。人を恨み、卑屈になって不幸のかたまりのような、また奴隷のような態度で生き続けることをしなかった。むしろ、神の恵みに生かされている人間、神から働きかけを受けた人間として希望を持って歩んだ。このことがパロの夢を説き明かすというまたとない機会に繋がっていった。
ヨセフは働きの人生において本当に神と良く交流をした。そのことは創世記の37章から50章の多くの御言葉から伺うことができる。神のヨセフへの働きかけに関する御言葉は、彼が一番逆境の時に多く出てくる(創世記39章には8回)。神はヨセフの一番逆境の時に一番彼と共におられ、彼を導かれた。「主がヨセフとともにおられたので」(創世記39:2)、「主が彼とともにおられ、主が彼のすることすべてを成功させて」(創世記39:3)、「主はヨセフのゆえに、このエジプト人の家を、祝福された。それで主の祝福が、家や野にある、全財産の上にあった」(創世記39:5)、「それは主が彼とともにおられ、彼が何をしても、主がそれを成功させて下さったからである」(創世記39:23)。また、ヨセフの神への応答に関する御言葉も多くある。「このことが神によって定められ神がすみやかにこれをなさるからです」(創世記41:32)、「神が私の苦しみの地で私を実り多い者とされた」(創世記41:52)、「神は私をエジプト全土の主とされました」(創世記45:9)。
ヨセフのように、問題や困難に直面した時に、それらが、私たちを本当に愛し、決して裏切ることなく支え続けて下さる神の御手の中で許されたことであると信じる人は、絶えず自分の前に神を覚えることができる。ヨセフはこのような神との密な交流を通して成長し、成熟した人物へと作り変えられて行った。創世記39章3節には、ヨセフの歩みの内に、そこに働かれる神の臨在が確かにあることを、その主人は知ったとある。「彼の主人は、主が彼とともにおられ、主が彼のすることすべてを成功させてくださるのを見た」。また、創世記41章38節には、パロが家臣たちに、神の霊の宿っているこのような人をほかに見つけることができようかと言ったとある。「そこでパロは家臣たちに言った。『神の霊の宿っているこのような人を、ほかに見つけることができようか』」
これらのことから、ヨセフの歩みは、その周囲にいる人にも神の臨在を感じさせる素晴らしいものであったことが伺える。そのことは、彼の労働を含むすべての人生にあらわれていた。彼は全力を注いで彼の働きを行った。そして、エジプトの大臣としてパロに仕える働きを通して、実に多くの恵みをエジプトの国に、また彼の親や兄弟に、引いてはイスラエル民族にもたらした。その働きの内には、彼が神から与えられた多くの賜物を見ることができる。神は、本気で神に従う人には、多くの恵みと祝福とを与えられるということが分かる。神は、彼のなすことすべてを成功させてくださった[17]。ヨセフの人生を通して、労働においても、神との密な交流が、いかに大切であるかを覚えさせられる。
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門谷晥一(かどたに・かんいち)
1943年生まれ。東京大学工学部大学院修士課程卒業。米国ミネソタ州立大学工学部大学院にてPh.D.(工学博士)取得。小松製作所研究本部首席技監(役員待遇理事)などを歴任。2006年、関西聖書学院本科卒業。神奈川県厚木市にて妻と共に自宅にて教会の開拓開始。アガペコミュニティーチャーチ牧師。著書に『ビジネスマンから牧師への祝福された道―今、見えてきた大切なこと―』(イーグレープ)。